2026/06/26

「ワインバーグ量子力学講義」(上、下2巻。ちくま学芸文庫)読了

 かのワインバーグ・サラム理論のワインバーグの量子力学の教科書である。歴史的な順序で量子力学の始まりから書き起こし、数式の展開も丁寧で、朝永振一郎の「量子力学」を連想させる。ディラックのブラケットは使わず、数学で使われる複素ベクトルの内積の書き方に準じているのが珍しい。添え字(サフィックス)についての和をとる場合には、同じ添え字が現れる場合は和の記号(Σ)を省略するというよく使われる記法は採用せず、省略なしできちんと書いているのが教育的である。文庫本であるので、このルールで書かれている数式を追うのは小さな活字の添え字がたくさんあって年寄りには少々つらい。大判の単行本で出してほしいなあと思う。
 散乱理論についても詳しく書かれていて、場の量子論をやらずにこのような展開ができるんだと思う。今まで読んだことのある量子力学の教科書では出てこなかった湯川ポテンシャル(中間子論のポイントとなる部分)も出てくる。新しい話題として、アハラノフ・ボーム効果、エンタグルメント、量子暗号通信(量子テレポーテーションには触れていない)、量子コンピューターについても、おおもとの論文に即して説明していて、こういう分野についてはブルーバックスのような解説書しか読んでいないかったので、数式的にきちんとした形はこうなんだと納得する。
 量子力学を学ぶための最初の1冊とするにはちょっとレベルが高い気がするが、自分のように大学時代に量子力学をやったけれどその後はそういう世界から離れてしまっている人間の復習には向いている。

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2026/05/11

不死の島には魔術師がいるのか?

 クリストファー・プリーストの新刊「不死の島へ」(古沢嘉通・訳 東京創元社)が出ていたことに気付き、早速入手して読んだ。「隣接界」より新しい作品かと思ったら、1981年の夢幻諸島シリーズの最初の長編だった。恋人との生活に挫折した主人公が小説を書き始めるが、その小説世界が現実世界に侵蝕を開始し、どちらが本当の世界かわからなくなるという作品。小説世界における主人公が夢幻諸島のある島で受ける不老不死手術という部分がSFなのであるが、この手術自体について具体的な記述はなく、いかにもSFですというものではない。読んでいて、ジョン・ファウルズの「魔術師」を思い出し、もしかしたら、ファウルズの「魔術師」のSF版を目論んだのかな、と思う。というのは、プリーストは本作の前に、ウエルズの「宇宙戦争」へのオマージュの「スペース・マシン」、ディックの「ユービック」に挑戦したような「ドリーム・マシン」を書いていて、自分がファウルズの「魔術師」を読んだ時、ファウルズは実はSFを書きたいのだが、なかなかそこまで踏み込めず、当時あった純文学とSFとの境界にぎりぎりまで近づいてみたのが「魔術師」ではないかと感じたことも思い出したからだ。ちなみに「魔術師」はガイ・グリーン監督によって「怪奇と幻想の島」というタイトルで映画化されている(1968年、主演はマイケル・ケイン)。以前、プリーストについてこのブログに書いたことがあったなあ、と思って読み返したら、その時も「魔術師」(河出文庫でちゃんと再刊されていた)に触れていた。すっかり忘れてた。

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2026/05/09

ポール・テリーのイソップ物語

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  ClassicFlix.com / CARTOON LOGIC から出ている「Aesop's Fables - The 1920s Vol.1」 を見終わった。ポール・テリーPaul Terry が、J.R.ブレイのもと(「アルファルファじいさん」シリーズを制作)から独立し、自身のスタジオで作った最初のシリーズである。アルファルファじいさんものはアニメ総会とかアニドウの上映会で40年以上前くらいにいくつか見た記憶がある。一方、イソップ物語を見た記憶はない。ということで、このブルーレイを買ったわけである。
 伴野孝司・望月信夫著「世界アニメーション映画史」の23.24ページに両作品についての記述はあるが、具体的に書かれているのは「アルファルファじいさん」の方だけで「イソップ物語」についてはその内容が分かるようには書かれていない。このブルーレイを見て、この部分を読み返してみたのだが、「アルファルファじいさん」の記述(大江健三郎の感想を引用している)はそのまま「イソップ物語」にも当てはまる。テリーの「イソップ物語」が原作に忠実なのは1921年の最初の3作くらいで、後は、アルファルファじいさん(とは名乗ってないがそのままのキャラ)や黒猫、ネズミ、犬、その他の動物キャラが演じるドタバタ・コメディで、原作を思わせるものは最後に「イソップ曰く~」とでる字幕にしかない。
 1921年の第1作から収録されているが、1923年の作品あたりから面白くなる。1926年のHer Benから、制作者名に、Harry Bailey,Frank Moser,John Foster,Mannie Davis が入ってくると更に面白くなる。特に、Frank Moser のものがいい。(リスト参照)
 ボーナスとして、ポール・テリーの兄、ジョン・テリーJohn Terry のチャーリー・チャプリンのアニメが2作、Charlie in Carmen(1916年)Charlie in Cuckcoo Land(1916年)入っている。前者は、「世界アニメーション映画史」の13ページに「凸坊カルメンの巻」としてタイトルが出てくる(「日本映画作品大鑑」キネマ旬報社1960年による)が製作者や内容などの詳細の記述はないので、貴重である。W.Gerald Hamonic「TERRYTOONS THE STORY OF PAUL TERRY AND HIS CLASSIC CARTOON FACTORY」(2018年)によれば、この作品はチャプリンの承認を得ずに作られたものだとのこと。

収録作品リスト
1 Mice in Council 1921 Paul Terry
2 The Fable of the Ant and the Grasshopper 1921 Paul Terry
3 The Fable of the Fox and Crow 1921 Paul Terry
4 The Spendthrift 1922 Paul Terry
5 The Fable of a Raisin and a Cake of Yeast 1923 Paul Terry
6 The Pearl Divers 1923 Paul Terry
7 Do Women Pay? 1923 Paul Terry
8 Herman the Great Mouse 1924 Paul Terry
9 Wine,Women and Song 1925 Paul Terry
10 The Ugly Duckling 1925 Paul Terry
11 Hungry Hounds 1925 Paul Terry
12 Her Ben 1926 Paul Terry & Harry Bailey
13 Anti-Fat 1927 Paul Terry & Frank Moser
14 When the Snow Flies 1927 Paul Terry & John Foster
15 Hard Cider 1927 Paul Terry & Mannie Davis
16 Subway Sally 1927 Paul Terry & Franl Moser
17 Small Town Sheriff 1927 Paul Terry & Harry Bailey
18 The Spider's Lair 1928 Paul Terry & Mannie Davis
19 Jungle Days 1928 Paul Terry & John Foster
20 Dinner Time 1928 Paul Terry & John Foster サウンド

 この中で1つ選ぶなら、ウインザー・マッケイの「恐竜ガーティ」へのオマージュがある Jungle Days かな。ハロルド・ロイドの「要心無用」を再現している Subway Sally も捨てがたい。 Dinner Time はディズニーの「蒸気船ウィリー」対抗で、急遽サウンドがつけられた作品であるが、この音でミッキー・マウスに勝つのは難しい。

 

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2025/12/31

2025年CS等で見た映画

 今年は123本。家庭の事情で昨年よりもさらに録画数より見れる作品数が減ってハードディスクには見てないものがたくさんたまった状態である。

 123本中の今年の一本は、東映チャンネルで見た「宝島遠征」である。監督は小林恒夫。主演は美空ひばり。1956年、つまり私が生まれた時の作品である。エノケン、益田喜頓、川田晴久など当時の喜劇俳優総登場。桃太郎の鬼退治のオペレッタ化したミュージカルである。とにかく楽しい、面白い。美空ひばり主演であるが、実際には、エノケンの「孫悟空」に美空ひばりが出ている感じである。その次が「肉弾」か。昔の邦画では「日本の青春」も面白い。ドキュメンタリーの「東京裁判」は今見る価値があった。

 劇場公開時に見逃して以来今まで見る機会がなかったが、見たらかなり面白かった「フェリスはある朝突然に」。「リコリス・ピザ」「ブレット・トレイン」は最近の公開作だがその時に見逃して見てみたかったもの。後者の日本の描き方(特に地理的関係)が少しおかしくて、話自体もかなりぶっ飛んでいるのが、楽しかったりする。前者は期待しすぎた感じである。

 ベルイマン「第七の封印」(4K修復版)「野いちご」「処女の泉」はすでに何回か見ているが、今年もまた見てしまった。ハリーハウゼンの「シンドバッド黄金の航海」「シンドバッド7回目の航海」も同様。「『シンドバッド7回目の航海』の思い出」というドキュメンタリーも見て、CGでない「特撮」の手作りの良さを思う。

 同様な監督特集ものでは、全く見たことのなかったジョージアのオタール・イオセリアーニ監督「四月」(中編)「落葉」「歌うつぐみがおりました」「田園詩」「蝶採り」「素敵な歌と舟はゆく」「月曜日に乾杯!」「唯一、ゲオルギア」3部作を見たが、処女作の「四月」が一番興味深く見れた。同じく見たことのなかったハンガリーのタル・ベーラ監督「ファミリー・ネスト」「ダムネーション/天罰」は後者の方が面白く感じた。ジャン・ユスターシュ「わるい仲間」「ママと娼婦」も見たが、この二人ほど印象に残らなかった。

 ヨーロッパの監督作品では、フィンランドのユホ・クオスマネン監督「コンパートメンNo,6」が忘れがたい。「アノーラ」でロシア人のガードマンを演じたユーリー・ボリソフが似たような役柄で出ている。この作品から「アノーラ」に出ることになったようだ。

 学生時代に石井隆の劇画「天使のはらわた」に衝撃を受けたので、その映画化(主に日活ロマンポルノ)作品を見てみたが、原作者本人が監督した作品よりも、最初の映画化である池田敏春監督の「天使のはらわた 赤い淫画」の方が原作の淫靡さを持っていた。ついでに、金子修介のデビュー作「宇野鴻一郎の濡れて打つ」も見てみたが、これが何と「エースをねらえ!」のパロディで、18禁同人誌というかオタク男子の妄想の映像化というか、主演の山本奈津子も可愛いので楽しかった。

 アニメは劇場公開作というよりは、テレフィーチャー作品の「ニンジャ・バットマン」「ニンジャ・バットマン対ヤクザリーグ」が、楽しかった。「出撃バットフェニックス」という往年のロボット・アニメの主題歌を彷彿とさせる曲(しかも歌うは堀江美都子!)が流れた時には腰を抜かした(自分と同学年の堀江美都子が二十歳くらいの時と同じように今も歌えるというのは驚異だ)。

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2025/12/26

Tom and Jerry The Golden Era ANTHOLOGY

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 トムとジェリーのハンナ=バーベラ作品114本コンプリートブルーレイがアメリカで発売されたので予約購入した。円安なので1万円を超える買い物になったが、画質はもちろん、音質も良く(私はこちらの方に驚いた)、完全オリジナルで収録されていて、さらに、後述する、関係者へのインタビューが入っているドキュメンタリー(本国でテレビ放映されたと思われるもの)、「錨を上げて」「濡れたら危険」のアニメーション合成シーン、トムとジェリーではないハンナ=バーベラ作品3本のオマケがついていて、さらに、20作品に研究者などによる音声解説がついている。「トムとジェリーの本」を買ってくれた人たちには、特にお薦めしたい。

(収録作品)
DISC1 (1)Puss Gets the Boot 上には上がある ~ (22)Quiet Please! ただいまお昼寝中
DISC2 (23)Spring Time for Thomas 春はいたずらもの ~ (46)Tennis Chump テニスなんて楽だね
DISC3 (47)Little Quacker 母をたずねて ~ (72)The Dog House お家はバラバラ
DISC4 (73)The Missing Mouse 恐怖の白ネズミ ~ (97)That's My Mommy 素敵なママ
DISC5 (98)The Flying Sorsererss 空飛ぶほうき ~ (114)Tot Watchers 赤ちゃんは知らん顔
DISC6 Special Features(特典映像集) (1)Lady of the House:The Story of Mammy Two Shoes (お家の淑女:足だけおばさんの物語)2025年作 (2)Animal Hijinks:The Friends and Foes of Tom and Jerry (動物たちの大騒ぎ:トムとジェリーのお友だちやライバルたち)2025年作 (3)The Midnight Snack 夜中のつまみ食い のペンシルテスト (4)Cat and Mouse:The Tales of Tom and Jerry (ネコとネズミ:トムとジェリー物語)2007年作 (5)Tom and Jerry:Behind the Tunes (トムとジェリー:音楽の裏側)2004作 (6)Animators as Actors (アニメーターは俳優)2005作 (7)Dangerous When Wett濡れたら危険のアニメ合成シーン (8)How Bill and Joe Met Tom and Jerry (ビルとジョーはいかにしてトムとジェリーに出会ったか)2004年作 (9)Vaudville,Slapstick and Tom and Jerry (ボードビル、ドタバタ喜劇とトムとジェリー)2011年作 (10)The Comedy Stylinngs of Tom and Jerry (トムとジェリーの喜劇のスタイル)制作年不明 (11)Anchors Aweigh錨を上げてのアニメ合成シーン (12)ハンナ=バーベラ作の短篇3本 Good Will to Man(1955年;ヒュー・ハーマンのPeace on Earth動物たちの国づくり 1939年のリメイク) Give and Tykeつかまるのはごめん(1957年) Scat Cats名犬チビ(1957年)

 特典映像の(1)はトムの住む家の黒人メイドに焦点を当てたもので、このメイド像はビクター・フレミング監督の「風と共に去りぬ」(1939年)に登場するメイドと同様当時の典型的イメージである、ということから始まって、1960年代に黒人たちの差別に対する抗議運動の全米的高まりから、黒人の描き方に対して映画製作者たちが非常に気にするようになり、ジューン・フォーレイが声を演じた白人女性に書き換えられた・・・という内容である。この黒人メイドの声を演じた女優リリアン・ランドルフLillian Randolphについても、貴重な出演作の映像も入れて紹介している。英語字幕が出せる仕様であってほしい内容である。(2)は我らが「トムとジェリーの本」でキャラクター総進撃と題した記事の映像版である。トムさんの恋のお相手を並べて見れるのだが、やっぱり、最後のお相手は・・・である。(3)はペンシルテストのフィルムと実際の作品を並べて収録されていて、ペンシルテストが実際の上映時間と同じに作られていることがわかり、単純に動きの確認をしているだけではないのがわかる。実に貴重である。(4)~(6),(8)~(10)は、ビル・ハンナ、ジョー・バーベラの晩年のインタビュー映像やレナード・マーチン、ジェリー・ベック、ジョー・アダムソンなどの私にはおなじみの研究者、当時のスタッフなどのインタビューで構成されたドキュメンタリーである。トムとジェリー関係文献の映像版である。なかなか貴重な映像もある。これらも英語字幕が出てほしいな、思う。このディスクは時間があるときに時間をかけて見たいと思っている。

 

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2025/12/11

ギエルモ・デル・トロのフランケンシュタイン

 シネマサンシャイン沼津でギエルモ・デル・トロ監督の「フランケンシュタイン」を見てきた。見終わった感覚は、「シェイプ・オブ・ウォーター」に近い。今までのフランケンシュタイン物の中で一番原作を読み込んで作られているように思う。メアリー・シェリーの原作を読み返したくなった。フランケンシュタイン映画に欠かせない映像的な面白さのあるシーンである「怪物」の誕生や盲目の老人とのやり取りもデル・トロらしい表現で面白い。NETFLIX製作なので、基本配信であるが、劇場で見るべき映画である。一部劇場だけでなく、広く劇場で上映してほしい作品。

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2025/10/31

TCJについての覚書

 「セロ弾きのゴーシュ」上映会について、伴野孝司さんとやり取りをしているときに、TCJの話題になって、東映動画が制作したTV用はリミテッドだけどきちんとアニメしてる、「鉄腕アトム」も動きはそれなりに動いてる、でも初期「鉄人28号」はひどい動きで、まるで素人が作っているようだけど、これについて何か知っている?という話になって、TCJについて書かれている本を3冊読んでみた。この3冊は読もうと思っていたが今まで読んでいなかったもので、ちょうどよい機会になった。
 以下、TCJがテレビアニメ制作をし始めた頃についてどう書かれていたかをまとめてみた。

津堅信之著「テレビアニメ夜明け前 知られざる関西圏アニメーション興亡史」(2012)ナカニシヤ出版
 京都精華大学の日本アニメーション史の研究者による関西におけるテレビ放送初期のアニメーション・コマーシャル制作会社が主題の本なのであるが、アニメーション・コマーシャル制作会社の嚆矢としてTCJ(Television Corporation of Japan)についての記述がある。リミテッド・アニメーションの手法を駆使して、サントリー「アンクルトリス」桃屋「のり平」のCMが作られていて、「鉄腕アトム」以前にこの手法が使われていたことを指摘している。テレビアニメを考えるうえでも、「仙人部落」「鉄人28号」「エイトマン」の質の異なる3本を同時期に制作していたことにより、虫プロよりもTCJの功労の方が評価されるべきだとも指摘している。
 TCJがテレビアニメシリーズに進出し、1963年に「仙人部落」「筒人28号」「エイトマン」の3作を作ることになった時に、それまでの小規模なCMアニメ制作部門を3班に分け、同時に新人スタッフを一気に100名単位で募集、養成しつつ制作にあたった。

鷺巣政安、但馬オサム著「アニメ・プロデューサー鷺巣政安 さぎす まさやす・元エイケン製作者」ぶんか社(2016)
 うしおそうじや吉田竜夫の本を出したライター但馬オサムが聞き手になって、鷺巣政安にインタビューしたものをほぼそのまま本にしたもの。但馬オサムが話を引き出すために当時のことを調べたことに基づき語っているが、その部分については根拠が乏しいものや記憶違いなのか、手元に資料を置いていないのか、怪しさを感じるものもある。出版社の問題か、誤植がかなりある。
 鷺巣政安は鷺巣富雄(うしおそうじ)の弟。1958年にTCJ(Television Corporation of Japan Co.Ltd)に入った。入社したのは、コマーシャル・アニメーションを作る会社に替わったばかりの頃で、チーフ・アニメーターは後に大西プロを作る大西清で、サントリーの柳原良平のアンクル・トリスのキャラクターを使ったものが代表作。動画へ行きたかったが、彩色のチェッカーから仕事を始めた。TV初期の頃はアニメーションのコマーシャルが多かったが次第に実写のものが増えていき、TCJもそうで、アニメ部門の仕事として、テレビアニメーションの制作をすることになり、プロデューサー補佐の仕事をするようになった。兄のピープロダクションにいつか移るのではないかと思われていたが、アニメーション制作部門が独立してTCJ動画センターとなり、さらにエイケンという社名に変わって、高橋茂人のように独立することもなく、プロデューサーとして仕事を続けた。
 「仙人部落」「鉄人28号」「エイトマン」の3本同時進行になった時、動画部門が3班体制となり、その3班のそれぞれが100人体制で、計300人のスタッフだった。多くの新人を一度に雇ったので、アニメーターは公民館を借り切って養成した。美大出身者や漫画家の卵に声をかけ、一般公募もした(元自衛官も応募してきた)。芦田漫画からの西島行男が「仙人部落」、大西清が「エイトマン」担当だった。「鉄人28号」は庵原和夫担当で、若林忠雄がチーフアニメーターだった。「鉄人28号」の制作が決まったのが一番最後だった。

ちば かおり著「ハイジが生まれた日」岩波書店(2017)
 「アルプスの少女ハイジ」のプロデューサー高橋茂人への取材から、高橋茂人がTCJから始まって、瑞鷹エンタープライズを起こして独立し、「アルプスの少女ハイジ」に至る軌跡が書かれている。高橋茂人はこの取材の最終回の1週間後に亡くなった。
 高橋は1955年、外車のセールスマンにでもなろうかと思い、柳瀬自動車(現:ヤナセ)にいくが、その時に、社長の柳瀬次郎からテレビコマーシャルを作る「日本テレビジョン株式会社」で日本初の仕事をしないかと言われて、1956年に入社する。この会社が名称変更したのがTCJである。当時、この会社は営業担当の業務部と制作を担う動画部の2セクションからなり、高橋は業務部に所属するが、絵コンテも描かされるなど、プロデューサー的役割でコマーシャルフィルム制作の現場を経験する。
 動画部は、芦田巌率いる芦田漫画を丸ごと吸収して、年ごとに増えていく仕事に対処するために採用された新人たちを芦田漫画出身者が教育しながらコマーシャルアニメを制作していた。芦田巌は会社組織になじめず、すぐに辞めてしまったが、手塚治虫とともに芦田漫画の入社試験を受けてただ一人だけ採用された西島行雄などが中心になっていた。西島は後年TCJの制作室長になる。東映動画の「西遊記」に参加した後の手塚治虫が、自身のアニメスタジオを作る参考にとTCJに見学に来るが、そのとき手塚を案内したのは西島であった。
 「鉄腕アトム」が放送された1963年、TCJでは「仙人部落」「エイトマン」「鉄人28号」の3作を同時期に制作する。このため、動画部を3チーム編成とし、それぞれが100人のスタッフを抱える、総勢300人の大所帯となった。この多くはアニメーションの経験のない新人たちで、国内からアニメーションの技術者を捜し、満州映画協会の元スタッフも雇い、新人を教育するとともに制作にあたった。

 

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2025/10/11

ワン・バトル・アフター・アナザー・ヴァインランド

 「ワン・バトル・アフター・アナザー」を見た。ターミネーターみたいなショーン・ペンの怪演がいい。エンドクレジットに、トマスピンチョンの「ヴァインランド」から着想を得たという献辞がある。「ヴァインランド」は初訳とその後2回の改訳版計3回読んでいたのに、これを見てもどんな話だったか思い出せず、家に帰って新潮社の全小説版を取り出して、14才の少女が行方不明の母を探す話だったか、と色々思い出す。振り返ってこの映画のことを考えると、登場人物の名前とか架空の町の名前の付け方が似ているし、実態の良くわからない革命組織や白人至上主義のキリスト教徒の秘密結社というのはピンチョン的。テレビに、フォグホーン・レグホーンのアニメが写っているのもワーナー映画だからというより、ピンチョン・オマージュだろう。

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2025/06/20

電脳の歌 スタニスワフ・レム

 スタニスワフ・レムの新刊「電脳の歌」を読み終えた。

 量子力学を学んでいた頃、本書の中核をなす「トルルルとクラパウツィウスの七つの旅」が「宇宙創世期ロボットの旅」というタイトルで集英社から出ていたのを読んで、今回の翻訳では「探険旅行その三、あるいは確率の竜」と題されている短篇に、笑い転げてしまった。量子力学が「竜子力学」(あるいは素粒子論が「素竜子論」)と呼べるものに翻案されていたからである。理解に苦しむ量子力学の根本の発想が、これほど面白い「おとぎ話」に換えられていた痛快さ。この瞬間に、自分にとってのSF作家のナンバーワンはレムだ、となって、その評価は今でも変わらない。この新訳で読み直したわけだけれど、40年前ほどには面白さを感じなかった。それは、量子力学の理解が自分の中で進んでしまったためか、それとも、この間に量子力学ネタの小説・映画をたくさん目にするようになったためか。今回読み直すと他の短編で現在の量子情報理論につながるものもあるのに驚く。この短篇集の作品は、1作を除いて主に1965年に書かかれていることも驚異である。現在の情報と物理学の重なり合い、最先端の科学技術の話題がすでに語られているのである。

 例えば、「探険旅行その六、あるいは、トルルルとクラパウツィウス、第二種悪魔を作りて盗賊大面を打ち破りし事」の第二種の悪魔は、マックスウェルの悪魔の本質を明確にしたシラードのエンジンに似ている。実は、シラードのエンジンなるものは最近、情報と物理学の関係の雑誌記事を読んで知ったので、昔読んだ時に比べるとこの短篇は面白く感じられた。1965年にシラードのエンジンを知っていたと思われるレムは、時代に先駆けた感覚を持っていたのだろう。シラードがこのエンジンについて最初に発表したのは1929年だけど、自分が物理学生だった頃はあまり話題になっていなかったが(逆に、情報のエントロピーと熱力学のエントロピーを同一視するのは危ないという注意の方がなされていたように思う)、このところ情報は物理だという考え方が一種の流行になっていて再注目されているのである。

 完全な初紹介の「ツィフラーニョの教育」は訳者泣かせの言葉遊びが特徴。特に「一人目の解凍者の話」は音楽用語が中心になったもので面白い。「二人目の解凍者の話」はどこが面白いのだろうか、と思って読んでいるうちに、唐突に終り、それで、この短篇も終わってしまう。はしごを外されて宙ぶらりんの状態に読者は置き去りにされる。何か深い意図はあるのかないのかも不明のまま。これもレムだ。

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2025/05/29

帰ってきた怪獣先生のソフビ怪獣展

Photo_20250529180901  SCMの中心メンバーである胡馬駿先生のソフビ展を見てきた。前回は見に行けなかったので、2回目の今回は行かねば、と新東名でC4ピカソを疾駆させたのであった。昔からソフビ人形やガチャガチャの人形の怪獣を集めていることは知っていたが(ダブってしまった快獣ブースカなどはもらったことがある)、これだけ展示されていると壮観である。退職して時間ができて、本物により近い色に塗り直したり、ツノを光るようにしたり、といった細工を施したもののできが、実に良い。こういうものの展示会が地元の文化施設でできて、平日でも見に来る人が途切れないというもの、彼と知り合った大学時代の頃からすると隔世の感。なんと、明日のテレビ静岡の「ただいまテレビ」という番組の中で生中継するとのこと(時間帯は18時20分くらい)。
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 久しぶり(2年ぶりくらいか)C4ピカソで高速道路を走った。タイヤをピレリのパワージィPOWEGYに換えて初めてである。タイヤ圧を高めに調整したばかりだったので、ちょっと跳ねる感じになり、グリップ力がプライマシーより落ちるのかなと思う。一方、ロードノイズは低く抑えられている印象である。80km/hくらいまでは乗り心地も良い。タイヤ圧が適正値だったら、多分、プライマシーと遜色ない乗り心地だろう。燃費もよさそうだ。コスパが良いタイヤだということは確実である。

 

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