2017/10/09

洋書録2017年

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'The Art and Inventions of Max Fleischer American Animation pioneer' RAY POINTER;Mcfarland & Company,Inc.,Publishers
 これは、今年の早い時期に出版されて手に入れたもの。タイトルにある通り、アニメーション製作におけるいろいろな技術や機械を考案し特許を取ったマックス・フライシャーの発明家としての側面に多くのページを割いた本。現在でも残されている特許申請書類からの図面が図版の多くを占めていてる初期のフライシャー・スタジオの様子は、興味深い。
 また、当時の映画雑誌や新聞のフライシャー作品の評価の採録が当時の様子を伝えている。ディズニーのようには資料が残されていないフライシャー・スタジオについては、こういうアプローチしかないんだろうな、と思う。


'SNOW WHITE'S PEOPLE An Oral History of the Disney Film Snow White and the Seven Dwarfs VOLUME1' DAVID JOHNSON;Theme Park Press
 ディズニーの「白雪姫」の制作にかかわったメンバーのインタビュー集の第1弾。未刊行の『「白雪姫」と世界恐慌』という本を書いた著者が1980年代末から90年代初めにかけて行ったインタビューの活字化である。ウイルフレッド・ジャクソンのインタビューから始まるが、このインタビューはジャクソンが亡くなる直前のものである。トレースや彩色を担当していた女性スタッフにもインタビューしている。インタビュー時期が90年前後であるから、ジャクソンに限らず、多くのスタッフは高齢になっていて、滑り込みセーフ的貴重なインタビュー集である。ディズニー・プロとは無関係の著者、出版社なので図版は一切ない。


'INK & PAINT The Women of Walt Disney's Animation' MINDY JOHNSON;Disney Editions
 ディズニー・プロの女性スタッフに焦点を当てた本。ディズニー・プロで出している本なので今まで見たことのなかった貴重な写真ばかり。ディズニー・プロ美女写真集と呼べるくらい美女ぞろい。FOREWORD を先ごろ亡くなった声優のジューン・フォーレイが書いているのも貴重。著者は最近邦訳が出たマーク・デービスの画集にも参加している。


'ARCHIVE COLLECTION  PORKY PIG 101 CLASSIC WARNER BROS. ANIMATED SHORTS'
 これは本でなくDVD5枚組コレクション。ポーキー・ピッグ作品が、第1作の'I Haven't Got a Hat'から'Porky Pig's Feat'まで101作収録。ワーナーブラザース・ホーム・エンターテイメントから発売されているが、受注生産という完全にマニア向け商品である。まだすべて見ていないので、詳細は見てから。

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2017/08/24

時空の長い午後

 この夏は、シュレーディンガーの本を読んだ。
 7月に新書版で高校時代以来何度か読んだ「生命とは何か」を岩波文庫版で読んだ。今まで読んだ時には気付けなかった「物理法則は統計的なものである」という考え方をしているのに、今回気付いた。本質的に統計的である量子力学の基礎方程式を見つけたわけだから当然という気がするが、波動関数が確率を表すという解釈には完全に反対する立場になっていた時代に書かれたものなので、読んでいて何か釈然としない部分もある。物理法則が統計的であるというのは、統計力学的にということで、物理的実在の本質にはコペンハーゲン解釈のようなものはないということらしい。つまり、同時期のアインシュタインの考え方と同じなのである。
 それで、もうちょっとシュレーディンガーの考え方に迫りたいということで、大学を卒業する頃に買って今まで読んでいなかった論文集である「シュレディンガー選集1 波動力学論文集」「シュレディンガー選集2 時空の構造・統計熱力学」を読んだ。この2冊は「生命とは何か」のような一般向けの本ではないので、いろいろ難しい式が出てくるが、その式についての説明が明快で、物理的イメージに基づいたものなので、非常にわかりやすい。本を買った頃に読んでおけばよかったと今になって思う。
 さらに、ジョン・グリビンによるシュレーディンガーの伝記「シュレーディンガーと量子革命」を読んだ。奥さんと愛人と3人で暮らした以外にも、どうみても犯罪的なロリコンだよなと思うような、ちょっと他の物理学者には見られない多彩な女性たちとの関係に驚嘆する。一方、奥さんも奥さんで、シュレーディンガーの同僚の学者と浮気をしているし、さらに驚くのは、シュレーディンガーが愛人に産ませた子供の面倒を見ているのである。すごい夫婦である。

 シュレーディンガーの本を読んだ後、じゃあ、ノーベル物理学賞を一緒に受賞したディラックの本を読もうと、数年前に出たグレアム・ファーメロによる伝記「量子の海、ディラックの深淵」と、ディラックの死後11年たってウエストミンスターに作られた記念碑の式典時の追悼講演の活字化「ポール・ディラック 人と業績」を読んだ。伝記の方で一番驚いたのは、ディラックがミッキーマウスの漫画映画の大ファンであったこと、「白雪姫」もイギリス初公開時に見に行っているということだった。ディラックが物理学者として一番創造的であった時期とミッキー作品の最も面白かった時期は一致していたのであるという当然のことに今まで気が付いていなかった! さらに、「2001年宇宙の旅」の初公開時に見て感激し続けて2回見たということ、小さい時から漫画が好きで特にお気に入りは「プリンス・ヴァリアント」だということ。
 ディラックの書いた「量子力学」を持っているのだが、これは大学時代に学部に上がったばかりの頃、同じクラスの友人と、どうせなら英語版で勉強会しようと買ったものだ。この勉強会は1,2度やっただけで挫折してしまった。書架からどりだしてみると、その挫折したページにしおりが挟まれていた。自分一人ででもこの教科書を読み通せたのなら、高校生でなく大学生を相手に物理を教えていただろうな、と思う。
 

 家族で天気の悪い涼しい日に、箱根のラリック美術館に初めて行った。ラリックが内装を担当したオリエント急行の実際の列車が1両展示されていて中に入れたのが一番良かった。この車両、沼津まで鉄道で運ばれ、沼津駅でトレーラーに乗せ換えられて御殿場・乙女峠経由で仙石原の美術館までやってきたそうだ。これにあわせて当時のポスターや時刻表、観光案内などが展示されていて、ガラス製品や装飾品より、面白かった。


 贔屓にしていたSF作家、ブライアン・オールディスの訃報を見た。80年代の代表作Helliconia3部作が存命中に邦訳されなかったのが残念だ。訳されそうにないからと、昨年3部作を1冊にまとめたペーパーバックの原書を買った。追悼の気持ちを込めて、読むことにしよう。Barefoot in the HeadやThe Eighty Minute Hourも訳してほしい作品だったんだけどなあ。

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2015/12/30

高い買い物、掘り出し物

 ベンダツィBendazzi先生の本 Animation:A World Historyが発売され、きちんと価格を確かめずにamazon.comに注文した。注文確認メールで値段を見たら、とんでもない価格。ハードカバーの学術専門書の価格だとしても高かった。3巻本で、総額は日本円で7万を越えた。この間のアニメ総会で、中国で発売されている中国アニメの歴史の本が高くて・・・という話を聞いたが、それを越えていた。
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 とりあえず、キューバのアニメについての記述部分を確認したら、2巻と3巻にあり、2巻の内容は自分が以前訳したCartoonsと同じで、その後の歴史が3巻に書かれていた。3巻の記述もホアン・パドロンが中心で、Vampiros en la Habana!(ハナバの吸血鬼)の続編Mas Vampiros en La Habanaが2003年に作られた、ということで終わっていて、その後を知りたかった自分にはちょっとがっかり。紙表紙の普及版が出てから買っても良かったか、とも思う。
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 近所のブックオフに家族で行ったときに、「アニメの世界Vol.1,2 colour Cartoons vol 1-2 デジタルリマスター版」というタイトルのDVDを見つけた。裏の収録作品説明の中に「ジャスパー・イン・ア・ジャム」「リトル・ルルとちっちゃい仲間」「コブウェブ・ホテル」「よい子の夢」とあるのを見て、こんな取り合わせのカートゥーンの日本版コンピレーションDVDが売らていたのかと、購入。250円。CFM MEDIAというところから2002年に発売されたものだった。
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「カラーリング・ブック」というぬり絵がおまけで付いていたが、これを見てみると、いったいどんな子がこういうシーンのぬり絵をしたがるのだ、と思うし、本国では子ども向けには避けられている黒人のカリカチュアのシーンをぬり絵にしているのにも驚く。このぬり絵冊子の裏には、この会社発売のDVDの宣伝が付いていて、「アニメの世界Vol.3,4」が載っている。この「Vol.3,4」も何が入っているか興味津々。今度捜してみよう。
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 このDVDに入っている作品は次のとおり。
1 クロスビー、コロンボ&ヴァレ CROSBY,COLUMBO,and VALEE 1932年 ルドルフ・アイジング メリー・メロディ
2 ジャスパー・イン・ア・ジャム JASPER IN A JAM 1946年 デューク・ゴールドストーン パペトゥーン
3 ローン・スター・ステート THE LONE STAR STATE 1948年 イサドア・スパーバー スクリーン・ソング
4 リトル・ルルとちっちゃい仲間 CHICK AND DOUBLE CHICK 1946年 シーモア・ネイテル リトル・ルル 
5 金の卵を生んだガチョウ THE GOOSE THAT LAID THE GOLDEN EGG 1936年 バート・ジレット&トム・パルマー フェリックス・ザ・キャット
6 ヤンキー・ドゥードル・ドンキー YANKEE DOODLE DONKEY 1944年 イサドア・スパーバー ノヴェルトゥーン
7 お化けのキャスパーちゃん THE FRIENDLY GHOST 1945年 イサドア・スパーバー
8 スクラブ・ミー・ママ SCRUB ME MAMA WITH A BOOGIE BEAT 1941年 ウォルター・ランツ
9 コブウェブ・ホテル THE COBWEB HOTEL 1936年 デイヴ・フライシャー カラー・クラシック
10 巣立ちの歌 THE SONG OF THE BIRDS 1935年 デイヴ・フライシャー カラー・クラシック
11 ハップ・ハップ・ハッピー・デー IT'S A HAP-HAP-HAPPY DAY 1941年 デイヴ・フライシャー ギャビィ
12 クツのお家の子供たち THE KIDS IN THE SHOE 1935年 デイヴ・フライシャー カラー・クラシック
13 よい子の夢 SOMEWHERE IN DREAMLAND 1936年 デイヴ・フライシャー カラー・クラシック
14 トゥ・スプリング TO SPRING 1936年 ビル・ハナ&ヒュー・ハーマン  ハッピー・ハーモニー
15 メリーちゃんの小羊 MARY'S LITTLE LAMB 1935年 アブ・アイワークス

 1と8はこのDVDで初めて見た。そして、この2作は実に貴重な作品である。1はワーナーのメリー・メロディの最初期の作品で、ロリン・ハミルトンとマックス・マックスウェルがアニメーターとして参加している。アメリカ・インディアン物。黒白なはずだが、このプリントは退色したカラーフィルムのようなセピア・カラーで、インディアンの髪の毛は黒く、他は赤茶けた色のグラデーションになっているのが不思議。8はランツの南部黒人物。1と同様に無意識の「人種差別」作品であるから、テレビ放映などされないし、アヴェリーやクランペットの同様の作品のようにギャグの過激さもないので、「歴史的な意義を尊重した」作品集にも収録されにくい作品(だから貴重)。
 2のパペトゥーンのジャスパーや9、12、13のカラー・クラシックの代表作が入っているもうれしいし、お化けのキャスパーの第1作、ビル・ハナの演出デビュー作も見れる。実に、お買い得であった。


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2015/11/07

キューバのアニメーション史

 以前、フアン・パドロンの「ハバナの吸血鬼」というキューバの長編アニメについて書いたのだけれど、今年のアニメ総会でキューバのアニメを紹介しようと、キューバのアニメについて何か文献はないかと捜して、かのベンダツィ先生の「アニメ百年史」Cartoonsの中に見つけて、訳してみた。

  Giannalberto Bendazzi:Cartoons(1994年)より 

キューバのアニメーションの最初の作品は、Napoleón,el faraón de los sinsabores(ナポレオン、苦悩する専制君主;1937年)、漫画家のマヌエル・アロンソManuel Alonsoの2分の黒白作品である。原作の漫画はEl pais gráficoの日曜版に連載されたもので、このフィルムは大成功を収めたが、アロンソのアニメーションでの仕事を十分に支えるほどではなかった。そのすぐ後の画家のロゼニャーダRoseňadaとシルビオSilvioのMasabiというキャラクターを用いたアニメーションの企画は失敗に終わった。
 グアンタナモでルイス・カスティーヨLuis CastilloがCoctel musical(音楽のカクテル;1946年)を製作した。そのタイトルにもかかわらずこの作品はサイレントだった。さらに、El jíbaro y el cerdito(農夫と子豚;1947年)を製作。一方、セザー・クルツ・バリオスCéser Cruz Barriosに率いられたグループがサンティアゴデクーバで設立された。何作かの実験の後、このグループはキューバで最初のカラー短編El hijo de la ciencia(科学の子;1947年)を発表した。この作品は大成功とはいえなかったが、彼らはドキュメンタリー、ニュース映画、実写映画に興味の中心をおき続けた。
 1950年代に、限られた期間の広告やテレビ業界の発展で少数の作品が作られた。広告代理店Agencia Siboneyが何人かの若い画家を雇った。彼らは後にキューバ最初の真にアニメーションと呼べる作品を作った。
 1959年3月24日、カストロ革命の後に、Instituto Cubano de Arte y Industria Cinematográfico(ICAIC;キューバ芸術映画産業協会)が設立され、アニメーションに関わる小さな部署がその中にできた。この部署のリーダーはヘスース・デ・アルマスJesús de Armasで、イラストレーターのエデュアルド・ムニョーズ・バッチスEduardo Muňoz Bachsや他の共同制作者と仕事をしていた。このときの最初の作品はLa prensa seria(真面目な出版社;1960年)だった。それは大人の観客を意識した政治的な諷刺で、次のような意図があった。すなわち、
 「・・・私的出版で出された名誉毀損と嘘の公開告発および、それに対して規制が必要であるという声明である。美術的には、UPAで典型的に使用されているグラフィックな表現を採用している。」
 ヘスース・デ・アルマスは、新しい社会を再建するための支援を見出すことを目的とした行動主義者に関するフィルムの製作を始めた。El tiburon y las sardinas(サメとイワシ;1961年)は帝国主義と革命の間の闘争について議論していた。La raza(1961年)は人種差別の不合理さを展開した。La quenma de la caňa(籐畑の火;1961年)とRemenber Girón(ヒロンを忘れるな;1961年)はアメリカ合衆国の侵略の脅威を図解した。デ・アルマスは、最初の「物語」アニメーション映画El cowboy(カウボーイ;1962年)も監督した。1967年に彼は画業から引退したが、ア二メーションの世界とは関係を持ち続けてキューバにおけるアニメ製作を手助けした。
 この時期の最も興味深い作品は、Los indocubanos(キューバインディアン;1964年)である。モンデスト・ガルシア・アルバレスMondesto Garcia Alvalez(マタンサス、1930年生)が監督した。優雅なペン画で作られた歴史映画で、ヨーロッパ人が到着する前のキューバの人々を共感的に描いていた。この映画に使用された絵は後に同じタイトルの本になった。スパニヤード・エンリク・ニカノールSpaniard Enrique NicanorのEl gusano(虫;1963年)も同様にこの時期の注目の作品である。
 1960年代半ばのキューバのアニメは様々な理由で下り坂となる。外国、初めはアメリカ、後にはチェコスロバキアとポーランド、の影響で、キューバのアニメーションの自発的な活動を低下させてしまった。また、教育映画は常にキューバで制作されてきた。例えば、El realengo(王室の家督;1961年)、あるいは、ヘスース・デ・アルマスのAEIOU(アエイオウ;1961年)。このような教育映画は政治的な作品や芸術的な作品より優先されてきた。
 1965年に、ルイス・ロヘリオ・ノゲラスLuise Rogelio Noguerasの Un sueňo en le parque(公園の展望;1965年)というキュービズムの影響を受けた平和主義者の作品が、洗練され知的過ぎて観客の要求を満足させられないと批判された。もっと伝統的で民族主義的な文脈では、エルマン・エンリケスHermán HenríquezがOsaín(1966年)で民間伝承を脚色し、同様に民間伝承に触発されたOro rojo(赤い黄金;1969年)で賞賛された。レイナルド・アルフォンソLeinald Alfonsoは、伝統的な歌を元にしたQuiero marinero ser(水兵になりたい;1970年)で人気を得た。教育映画の分野では、中心人物はオーストラリア人画家のハリー・リードHarry Readeで、反帝国主義者のパンフレット、La cosa(物)を製作した。
 1970年代の初頭に、ICAICのアニメーション部門は再編され、再出発した。子ども向けの作品を作ることが望まれて、キューバの権威者たちはアニメーションに向かった。国内の何箇所かで、子供たちにとって何が適当で何が適当でないか定義する会議が開かれた。と同時に、アニメーションはその教育的目的を維持せねばならず、その表現手段は子供たちの要求に適合せねばならなかった。2つのカテゴリーが作られた。その1番目は2歳から7歳で、2番目は8歳から14歳であった。1番目のグループに対応する作品は動植物に命を与えたファンタジーで会話は制限された。より年上の子供たちに対する作品は、良く考えられたキャラクターとプロットを持つアクションとアドベンチャーに焦点が当てられた。トゥリオ・ラッヒTulio Raggi(ハバナ、1938年生)とマリオ・リバスMario Rivas(サンタクララ、1939年1月29日生)は主に若い方のグループ向けの作品を作り、フワン・パドロンJuan Padrón(カルデナス、1947年1月29日生)(訳注:本人のプロフィールと出身地が違うがどういうことなのか?)は年上の子供たち向けの仕事に特化していた。
 これらのアーティストたちの貢献は1980年代に入るまで続き、この時代にキューバのアニメーションのスタイルの実験が始まり、大人向けのテーマが発展し始めた。1964年にEl profesor Bluff(ブロフ先生)でデビューしたラッヒは、El cero(ゼロ;1977年、数学)El tesoro(宝物;1977年、地理)のような楽しい教育映画や次のようなキューバの歴史に基づく3本の映画を発表した。El negrito cimarrón(小さな黒人の逃亡奴隷;1975年)、El trapiche(きび引き器;1978年)、El palenque de los esclavos cimarrones(避難所;1978年)。最後の作品は黒人奴隷の反乱と山岳地帯への逃避に基づいている。1983年にラッヒはEl alma trémula y sola(震える孤独な魂)を製作した。これは建国の父ホセ・マルティJosé Martíの追放に関するアダルトな主題についての静止画で作られた作品だった。そのタイトルはマルティによる詩の一節そのものである。1890年のニューヨークの濃い空気の中で、この作品は暴動への準備をしている間のマルティの日常の雑事と記憶を描いている。
 マリオ・リバスはParque forestal(森林公園;1973年)でデビューした。彼の子供向けのたくさんの作品の中には、Feucha(みにくい女の子;1978年)やLa guitarra(ギター;1978年)がある。1981年にEl deporte nacional(国民の娯楽)というキューバで特別に人気のある野球の発展と拡散についての作品を監督した。真面目な教育者であるリバスはFilminuto(ハバナのスタジオの様々な作者による短編のコレクション)のシリーズの中のエピソードで刺激的なユーモアを見せた。彼の最高傑作と考えられているのは、El bohío(1984年;ヤシの木の小屋)である。ヤシの木の小屋は国への侵略者により何度も何度も破壊されるが、カストロによる独立の宣言まで、ある家族により毎回再建される。ギャグとリズムに富んだキューバの歴史についてのこの簡明な小論は、巧みなイデオロギーと娯楽のミックスである。
 次のようなコミック・ブックのアーティストもアニメーションに貢献した。例えば、マヌエル・’リロ’・ラマールManuel'Lilo'Lamar(マトホMatojoという彼のキャラクターとともに)、セシリオ・アビレスCecilio Avilés(セシリンCecilínとコティCotiとともに)、そして、とりわけ、フワン・パドロン。15歳のときからパドロンは二メーションに興味を示していた。フワン・パドロンは、ヘスース・デ・アルマスのスタジオで一時期基本的な仕事を学んでいだ。さらに、アーティストとしての彼の教育はコミック・ブックで始まった。1970年に、エルピディオ・バルデスElpidio Valdésという彼のキャラクターは、子供週刊誌Pioneroのページで生まれた。バルデスは「マンビmanbi」、すなわち、スペインの植民地主義者と独立のために戦う、19世紀のキューバの愛国者である。風習や物、制服、さらには食べ物まで広範囲の調査の末に、パドロンは子供たちの先祖の生活の歴史的に正確なイメージを提示した。コミック・ブックで語られた長編「小説」として、また、同様にアニメーションとして。
 パドロンは、Elpidio Valdés contra el tren militar(エルピディオ・バルデス対武装列車;1974年)で監督デビューした。同じようなエピソードの続編がそれに続いた。1979年、ICAICの20周年の機会に、Elpidio Valdés(エルピディオ・バルデス)と題されたキューバで始めての長編アニメーションを製作した。2本目の長編Elpidio Valdés cóntra dolar y caňón(エルピディオ・バルデス対ドルと銃;1983年)で、その受けの良い反逆者は依然として独立のために戦っていた。今回は武器販売業者やスペインのスパイに立ち向かった。漫画漫画した絵と程良い量のユーモアで作られていて、これらのアドベンチャー映画は若者たちの間で大人気になっただけでなく、学者たちの間でも人気が出た。
 多産なアーティストであるパドロンは別な企画でも同じように働いた。その中には、賞を取った短編La silla(椅子;1974年)やLas manos(両手;1976年)がある。1980年に彼はFilminutoを始めた。1985年に、アルゼンチンの漫画家でユーモリストのホアキン・'キノ'・ラバドJoaquin 'Quino' Lavadoとの共同制作でQuinoscopioのシリーズを開始した。その同じ年に3作目の長編Vampiros en la Habana!(ハナバの吸血鬼)を発表した。吸血鬼が日中活動できる発明の陽気な大騒ぎの物語である。ホラー映画とギャング映画の結婚、それは、「楽しい露骨な戯画」とヴァラエティVariety紙で歓迎された。注目すべきユーモリストのパドロンは、その膨大な作品において、文化の要求と娯楽の必要性を結びつけバランスさせた。と同時に、彼と同世代のキューバのアニメーターたちに対してリーダーシップを発揮した。

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2015/08/26

インヒアレント・ヴァイス

 トマス・ピンチョン原作(LAヴァイス)の映画「インヒアレント・ヴァイス」(ポール・トーマス・アンダーソン監督)のブルーレイがもう出ると知り、予約注文して入手。先日鑑賞。前半、ところどころ居眠り。ビッグフットが日本人シェフの食堂で「もっと、パンケーキ」(バックに坂本九の歌声が流れる)と日本語で叫ぶ辺りから見ているのが面白くなる。劇場で見たかった。ジョイランド沼津があったら上映してくれたと思う。

 「インヒアレント・ヴァイス」再見。今度は寝ずに見たが、2時間半連続して見ることは、用事が入ってできず。2度目に見ても、面白いのはロス市警の刑事ビッグフット。What's up,Doc?と言い、チョコバナナを人参のように食べるのはまるでバッグスバニー。原作のカートゥーン(ダフィ・ダックの迷探偵物)的な部分をこれで表現。でも、原作のドタバタ喜劇性は抑えれられていて、フィルムノワールな部分が前面に。これは賢い映画化だと思う。原作は2クールの30分テレビドラマ風の作りで、そのまま映像化したら多分12時間くらいになるので、どこかの要素を捨てないといけない。アンダーソン監督はそこをうまく処理したと思う。

 原作は当時の音楽がガンガン流れている感じであるが、この映画は60年代の懐かしい曲が次から次へと聞こえてきそうで、聞こえてこない。当時の音楽は坂本九の「スキヤキ」(上を向いて歩こう)のようにかすかに聞こえているシーンが多い(「ギリガン君SOS」のテーマはどこに使われていたんだ?)。

 いかれた歯医者を演じていたのは、マーチン・ショート!この役柄にショートを使ったのは、山椒のようなスパイスだ。

 原作の「LAヴァイス」を読んだときにも思ったが、やっぱり映像化されるとロマン・ポランスキー監督ジャック・ニコルソン主演の「チャイナタウン」を強く連想させる。特に夕陽に染まるシーンは。わざとアンダーソン監督がやっている可能性もある。

 主役のホアキン・フェニックス、ビッグフットを演じたジョシュ・ブローリン、コーイ・ハリゲンの妻役のジェナ・マローン、昔見た映画の子役だったんだ。ナレーションとショーティレッジを担当したジョアナ・ニーサムが、実は、女優陣で一番気になった。なんと、ハーブ奏者でシンガーソングライターなんだそうだ。どんな曲を演奏してるんだろう。

 P.K.ディックの「スキャナー・ダークリー(暗闇のスキャナー)」も思い出させる麻薬中毒者たち。原作にあるSFな部分はばっさりカットされている。「三大怪獣地球最大の決戦」は「ローマの休日」だというのもカット。ただし、ゴジラという単語は最初の方でセリフにある。

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2015/04/05

リミティッド・アニメはUPA

  ’WHEN MAGOO FLEW ’というUPAについての研究書を読んでから、UPAの作品をまとめて見てみたいと思っていた。そこで、amazon.comでUPAの作品集のDVDボックスセット('UPA THE JOLLY FROLICS COLLECTION'と'Mr.Magoo The Theatrical Cartoons 1949~1959')を入手して、やっと見終わった。見終わって素直な感想を言えば、「ジェラルド・マクボイン・ボイン」「ルーティ・トゥート・トゥート」「庭の一角獣」がベスト3であることは確かで、それ以外のものを今まで見ていなかったからといって、悔しがる必要はまったくない、ということだ。マグーについては、劇場用カートゥーン末期に、ど近眼の頑固親父のアニメをこれだけたくさん、よく製作したなあ、ということに尽きる。マグーはテレビ・シリーズ版を子供の頃テレビで見ていたけれど、すごい面白い話があったという記憶はない。テレビ・シリーズ版のDVDも発売されているので、こちらを見る方が懐かしさを感じるかもしれない

 見終わって、一番驚いたのはTHE MAGIC FLUKE。「世界アニメーション映画史」では「魔法の笛」という邦題が与えられているが、この邦題が誤訳であることと、アヴェリーの「へんてこなオペラ」の先行作品であったということが分かったことだ。「魔法の指揮棒」というのが原題の意味である。「へんてこなオペラ」を見ている人なら魔法の指揮棒と言われれば、あ~あ、あれね、という指揮棒である。「世界アニメーション映画史」の邦題の根拠は分からないのだけれど、FLUKEをFLUTEと勘違いした訳だとは思う。作品を見ていさえすれば魔法の笛など出てこないのは一目瞭然。その上、アヴェリーのギャグを先取りしているわけだから、筆者の一人である望月信夫さんがそれについて書かないということはありえない。不思議だ。

UPA THE JOLLY FROLICS COLLECTION

DISC1
ROBIN HOODLUM 1948 J.Hubley 「ロビン・フッドラム」
THE MAGIC FLUKE 1949 J.Hubley 「魔法の笛」
THE RAGTIME BEAR 1949 J.Hubley
PUNCHY DE LEON 1950 J.Hubley
THE MINER'S DAUGHTER 1950 R.Cannon
GIDDYAP 1950 A.Babbit 『ギディ・アップ』
THE POPCORN STORY 1950 A.Babbit 『ザ・ポップコーン・ストーリー』
THE FAMILY CIRCUS 1951 A.Babbit 『ザ・ファミリー・サーカス』
GERALD McBOING BOING 1951 R.Cannon 「ジェラルド・マクボイン・ボイン」
GEORGIE AND THE DRAGON 1951 R.Cannon 『ジョージとドラゴン』
THE WONDER GLOVES 1951 R.Cannon
THE OOMPAHS 1952 R.Cannon 『ジ・ウームパーズ』
ROOTY TOOT TOOT 1952 J.Hubley 「ルーティ・トゥート・トゥート」

DISC2
WILLIE THE KID 1952 R.Cannon
PETE HOT HEAD 1952 P.Burness
MADELINE 1952 R.Cannon 「げんきなマドレーヌ」『マデレーン』
LITTLE BOY WITH A BIG HORN 1953 R.Cannon
THE EMPEROR'S NEW CLOTHES 1953 T.Parmelee
CHRISTOPHER CRUMPET 1953 R.Cannon 「クリストファー・クランペット」
GERALD McBOING BOING'S SYMPHONY 1953 R.Cannon 『ジェラルド・マクボイン・ボインズ・ミュージック』
THE UNICORN IN THE GARDEN 1953 W.T.Hurtz 「庭の一角獣」
THE TELL-TALE HEART 1953 T.Parmelee 「告げ口心臓」
BRINGING UP MOTHER 1953 T.Parmelee
BALLET-OOP 1954 R.Cannon
THE MAN ON THE FLYING TRAPEZE 1954 T.Parmelee
FUDGET'S BUDGET 1954 R.Cannon

DISC3
HOW NOW BOING BOING 1954 R.Cannon 『ハウ・ナウ・マクボイン・ボイン』
SPARE THE CHILD 1955 A.Liss
FOUR WHEELS NO BRAKES 1955 T.Parmelee
BABY BOOGIE 1955 P.Julian
CHRISTOPHER CRUMPET'S PLAYMATE 1955 R.Cannon
THE RISE OF DUTON LANG 1955 O.Evans
GERALD McBOING! BOING! ON PLANET MOO 1955 R.Cannon「マクボイン・ボイン遊星ムーへ行く」
THE JAYWALKER 1956 R.Cannon 『ザ・ジェイウォーカー』
TREES AND JAMAICA DADDY 1958 L.Keller & F.Crippen 『ツリーズ・アンド・ジャマイカ・ダディ』
SAILING AND VILLAGE BAND 1958 L.Keller & F.Crippen
SPRING AND SAGANAKI 1958 L.Keller & F.Crippen
PICNICS ARE FUN AND DINO'S SERENADE 1959 L.Keller & F.Crippen


Mr.Magoo The Theatrical Cartoons 1949~1959

DISC1
RAGTIME BEAR 1949 J.Hubley 「ラグタイム・ベア」
SPELLBOUND HOUND 1950 P.Burness 『スペルバウンド・ハウンド』
TROUBLE INDEMNITY 1950 P.Burness 『トラブル・インデムニティ』
BUNGLED BUNGALOW 1950 P.Burness
BAREFACED FLATFOOT 1951 J.Hubley
FUDDY DUDDY BUDDY 1951 J.Hubley 『ファディ・ダディ・バディ』
GRIZZLY GOLFER 1951 P.Burness
SLORRY JALOPY 1952 P.Burness
THE DOG SNATCHER 1952 P.Burness
PINK AND BLUE BLUES 1952 P.Burness
HOTSY FOOTSY 1952 W.T.Hurtz
CAPTAINS OUTRAGEOUS 1952 P.Burness 『キャプテンズ・アウトレージャス』
SAFETY SPIN 1953 P.Burness
MAGOO'S MASTER PIECE 1953 P.Burness
MAGOO SLEPT HERE 1953 P.Burness
MAGOO GOES SKING 1954 P.Burness
KANGAROO COURTING 1954 P.Burness
DESTINATION MAGOO 1954 P.Burness

DISC2
MAGOO'S CHECK-UP 1955 P.Burness
WHEN MAGOO FLEW 1955 P.Burness 「マグーの空中旅行」『ホエン・マグー・フルー』
MAGOO MAKES NEWS 1955 P.Burness
MAGOO'S EXPRESS 1955 P.Burness
MADCAP MAGOO 1955 P.Burness
STAGE DOOR MAGOO 1955 P.Burness
MAGOO'S CANINE MUTINY 1956 P.Burness
MAGOO GOES WEST 1956 P.Burness
CALLING DR.MAGOO 1956 P.Burness
MAGOO BEATS THE HEAT 1956 P.Burness
MAGOO'S PUDDLE JUMPER 1956 P.Burness 「マグーの海底旅行」『マグーズ・パドル・ジャンパー』
TRAIL BLAZER MAGOO 1956 P.Burness
MAGOO'S PROBLEM CHILD 1956 P.Burness
MEET MOTHER MAGOO 1956 P.Burness
ROCK HOUND MAGOO 1957 P.Burness
MAGOO'S MOOSE HUNT 1957 R.Cannon
MAGOO'S PRIVATE WAR 1957 R.Lariva
MAGOO GOES OVER BOARD 1957 P.Burness

DISC3
MATADOR MAGOO 1957 P.Burness
MAGOO BREAKS PAR 1957 P.Burness
MAGOO'S GLORIOUS FOURTH 1957 P.Burness
MAGOO'S MASQUERRADE 1957 R.Lariva
MAGOO SAVES THE BANK 1957 P.Burness
MAGOO'S YOUNG MANHOOD 1958 P.Burness
SCOUTMASTER MAGOO 1958 R.Cannon
THE EXPLOSIVE MR.MAGOO 1958 P.Burness
MAGOO'S THREE-POINT LANDING 1958 P.Burness
MAGOO'S CRUISE 1958 R.Larriva
LOVE COMES TO MAGOO 1958 T.McDonald
GUM SHOE MAGOO 1958 G.Turner
BWANA MAGOO 1959 T.McDonald
MAGOO'S HOME COMING 1959 G.Turner
MERRY MINSTREL MAGOO 1959 R.Larriva
MAGOO'S LODGE BROTHER 1959 R.Larriva
TERROR FACES MAGOO 1959 C.Ishi&J.Goodford 『テラー・フェーシズ・マグー』

DISC4
1001 ARABIAN NIGHTS 1959 J.Kinney 「近眼のマグー・千一夜物語」

邦題は、「 」は「世界アニメーション映画史」、『 』は「マウス・アンド・マジック」のもの

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2015/02/22

注文したのを忘れていた本

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amazon.comから、'DISNEY DURIG WORLD WAR Ⅱ HOW THE WALT DISNEY STUDIO CONTRIBUTED TO VICTORY IN THE WAR’JOHN BAXTER/Disney EDITIONS;2014 が突然届いてびっくりしてしまった。大分前に予約注文していたのを忘れてしまっていたのだ。

 内容は、タイトルにある通りで、第二次世界大戦中のプロパガンダ作品(「総統の顔」「空軍力の勝利」などなど)や兵士などのトレーニングフィルムについて、さらには、military insignia という戦闘機や爆撃機の機体などに描かれる部隊のマスコット・キャラクターについて(Hank Porterという画家が中心になって無償で製作した・・・)、ディズニーのアーカイブになる資料を元にして書かれた本である。プロパガンダやトレーニング・フィルムはDVDやネット上でかなりの数見ることができるが、それらがどのような目的でどんなスタッフで作られたかは、このような本がないとわからない。

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 戦時中に企画されて結局は製作されなかったGremlinsについても1章が割かれていて、残されたキャラクター・デザイン表などがカラーで掲載されている。このグレムリンのデザインは、ワーナー漫画の短編「クレムリンからのグレムリン」Russian Rhapsoday(1944年ロバート・クランペット演出)などに出てくるグレムリンにそっくりである。ロアルト・ダールの「グレムリン・ロア」に使われた挿絵か何かに原型があるのかなあ?この本に載っているディズニー・バージョンのグレムリンには女の子(というより女性というべきか)がいて、これがディズニーらしからぬ色っぽさ。

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2014/12/30

インターステラー

 クリストファー・ノーラン監督「インターステラー」を見た。SFファンの複数の知人が褒めていたので期待した。期待を裏切らないできではあるが、「ゼロ・グラビティ」や「ミスター・ノーボディ」を見たときのようなカタルシスは感じなかった。相対論的効果によって子供の方が年をとってしまうというのをきちんと映像化した作品は今までなかった、という意味で画期的ではある。

 テレビに良く出る早稲田の大槻教授がどこからともなく新粒子が出現してしまう幽霊みたいなものを許す理論は正しいとは思えないと評した、ランドールらが主張する重力しか伝わらない余剰次元(空間第5次元)理論を元にしたストーリーなので、大槻先生が言うようなポルタガイスト現象があって面白い。重力を利用すればコミュニケーションできる、というのは、かのキップ・ソーン博士(その名前がときどきモノリス化するロボットに使われている)がかかわっているからか。

 懐かしいジョン・リスゴーやマイケル・ケインが出ているのが良かった。特に、ジョン・ファウルズの「魔術師」の映画化「怪奇と幻想の島」で、博士を名乗る人物に翻弄され何が本当かわからなくなり困惑する主人公を演じたケインが、老物理学者役で逆に主人公を翻弄する側に回っているのが面白かった。「愛と嘘」という観点から見れば、「魔術師」の宇宙版であって、ハードSF的なものは体裁だけと言える(これが実は残念なのだ)。日本では話題になったことがない「怪奇と幻想の島」が急にDVD発売されたのは「インターステラー」のためだったのかな。

 これはあの有名なSF映画、これはあのSF小説だな、と思えるシーンが続出だけれど、再び宇宙に飛び立っていく主人公には、レムの「星からの帰還」の主人公を連想した。

 地球の環境悪化を初めの方でかなり執拗に描いていて、そのシーン中に、ドキュメンタリー・タッチの老人たちの話がところどころで挟まり、ちょっとした違和感とともに、宇宙へ出ることを納得させるアリティを感じた。このちょっとした「違和感」は、最後の方でそういう仕掛けだったのか、と解消するのがノーラン監督流。

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2014/11/15

佐藤良明・訳「重力の虹」トマス・ピンチョン

 旧訳をやっと翻訳されたと20年ほど前に読んだ。その時に、自分が慣れ親しんでいる分野の用語や表現が全然きちんと訳されていなかったことで、出版社にそのことについて手紙を書いた。そうしたら、訳者の代表者から返信があり、「重力の虹」の攻略本を出す予定なので執筆者の仲間になって欲しい、とあった。その後、このことについて何の連絡も来ず、10年がたって、このとき送った手紙を元に、ピンチョンへのオマージュのホームページを作った。このホームページを作っているときには知らなかったのだが、旧訳の出版元である国書刊行会は「重力の虹」を絶版にしていた。それから、また10年。今度は、原文を確認しながら読むということにはならないだろうと思ったのだが、やっぱり、第3部の「イン・ザ・ゾーン」からところどころで原文を確認することになった。もちろん、その回数は旧訳のときよりはるかに少ない。原書は、旧訳のときに持っていたペーパーバックはボロボロになってしまったので、買い直した大判のPENGUIN GREAT BOOKS OF THE 20TH CENTURY版である。

 最後の1節「落下」で、主人公の祖先のウィリアム・スロースロップ作の賛美歌を歌いましょうというところで、「弾むボールに合わせてどうぞ」と訳されていて、「バウンシング・ボール」とカタカナでは訳されてはいなかった。フライシャー兄弟作の「小唄漫画」などで何作か、ボールが歌詞の上を弾んで歌う部分を示す作品を自主上映で見ていて、これが「bouncing ball」というものだと、解説者の森卓也さんから教えられた者にとって、弾むボールだと卓球をしているようで、しっくりこない。今回は訳注が付いているのだが、バウンシングボールが登場する映画(アニメ)があって、バウンシングボールで観客にさあ一緒に歌いましょうと歌詞を示すのは、その映画のエンディングであり、歌はテーマソングであるということまで説明すべきであろう。私にとって「重力の虹」は、そのエロ・グロ・ナンセンスさ、メカや発明へのこだわり、キャブ・キャロウェイなどへの言及、話のスムーズな繋がりなど気にしないなどの点から、フライシャー兄弟が作ったかもしれないバウンシングボール付き大長編漫画映画なのである。旧訳よりもそういう雰囲気が濃厚な今回の佐藤良明の訳文である。

 ピンチョンが「重力の虹」を書き始める頃、1965年にマイケル・アンダーソンが監督した「クロスボー作戦」という、ドイツ軍のV2号ロケット開発計画を突き止め、それを阻止しようとするイギリス政府とその諜報機関の活躍を描いた映画がある。レーザーディスクで発売されたときに初めてこの映画を知り、「重力の虹」の参考になるんじゃないか、というか、もしかしたら元ネタ?、という興味で買って見た。戦争アクション映画としてみるとそれほど面白い出来ではないが、キャストはソフィア・ローレンやらジョージ・ペパード、トレーバー・ハワードなどなどといったオールスター・キャストの映画で、特撮もなかなかである(この映画の特撮スタッフの多くはその後「2001年宇宙の旅」に参加している)。初めの方で描かれるドイツのロケット開発の様子のリアルさと、後半のスパイアクションのB級映画っぽさの対比が、元ネタとまでは行かずとも、何がしかのインスピレーションをピンチョンに与えたと考えたくなる作品だ。


 今回の佐藤良明・訳でも、ちょっと不満足であった箇所について、以下に示す。

 下巻の580~581ページで、イミポレックスGというピンチョンが創作したプラスティックについての疑似科学的説明が、いまひとつ、それらしくないんだな。

(訳文)
 (a)導線による薄いマトリックスを、<イミポレックスG>の表面に近づけ、両者に密接な相互作用システムを形成する。
(原文)
 (a)a thin matrix of wires,forming a rather close-set coordinate system over the Imipolectic Surface

coordinate system ときたら、「座標系」とするのが物理学的な説明の常である。 matrix は科学用語としても色々訳語があるが、縦横がきちんとそろった「行列」あるいは「表」みたいなものと解するのが妥当だろう。

 「薄い導線を縦横に張り巡らしてイミポレックスGの表面上に密着させた座標系を形成する。」

 この方が、「勃起」を含むコマンドを限定的な領域に送り込める仕組みとして具体的に理解できる。

(訳文)
 科学の他分野における「超音波領域」や「重心」
(原文)
 "Supersonic Region"or"Center of Gravity"in other areas of Science

これは旧訳と同じミス。Supersonic は「超音速」である。サイエンスの綴りの先頭が大文字になっているんで、このサイエンスは特定のサイエンス、つまり、ロケットについてのサイエンスであると解釈するのが妥当。ロケットは超音速で飛行しているのだ。


(訳文)物理的変形φR(x,y,z)がもたらしうる機能上の乱れγRは、<イミポレックス>の下層における乱れγBの有するより強力なパワーpに正比例する(ただしpは整数とは限らず、経験的に決定される)
(原文)"Probable functional derangement γR resulting from physical modification φR(x,y,z) is directly proportional to a higher power p of sub-imipolectic derangementγB, p being not necessarily integer and determined empirically

 これは旧訳と同じpowerの誤訳。「Xの2乗」の「乗」の意味のpowerとしないと、物理の理論でよく出てくる説明のパロディになっているということが伝わらない。2つの物理量xとyの間に何らかの関係がある場合、xが別な物理量tと関係していて、X=at+bt^2+ct^3+・・・t^pとなるときに、yがtのp乗のpという数に比例している、というような関係になる場合がある。多数についての統計的な量の関係の場合、このような説明が案外出てくる。また、二次関数、三次関数、という用語があるが、この二次、三次は2乗、3乗のことで、三次関数以上は高次関数などという。ここで使われているhigherはこの「高次」を意味する。xの何乗ということを考えるとき、普通整数乗を考える。「pについて整数とは限らない」と注釈しているわけだから、明らかにpはp乗の意味である。

 「物理的変形φR(x,y,z)がもたらしうる機能上の乱れγRは、<イミポレックス>の下層における乱れγBのより高次の乗数pに正比例する(ただしpは整数とは限らず、経験的に決定される)」


 さらにもう一つ。旧訳よりは良くなっているが、「重力の虹」である以上「重力」についての真打ちを示す用語を、もっとストレートに訳して欲しかった部分。下巻654ページ。

(訳文)
 離散していた種子が万有引力で内側に向かって結集することのささやかなプレビューであり、救世主が落ちた火花を集めることの予行演習である。
(原文)
 seeds of exile flying inward in a modest preview of gravitational collapse,of the Messiah gathering in the fallen sparks

gravitational collapse は「重力崩壊」と訳される一般相対論的宇宙論の用語で、星のコアがつぶれて自重に耐え切れずに無限に小さくつぶれていき、ついにはブラックホールとなる様子を示す用語である。ブラックホールという用語は「重力の虹」が出版されたころホィーラーによって作られた言葉で、ピンチョンが執筆していた頃にはなかった言葉だ。ブラックホールという言葉がもっと早く作られ現在のように一般化していたら、きっとここにブラックホールと書いたと思う。

 「離散していた種子が内側に向かって飛んでいく。ブラックホールへと突き進む重力崩壊の、救世主が落ちた火花を集めることの目立たないプレビューの中で。」

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2014/10/27

ベティ・ブープは音楽だ

 本国のamazonに予約注文していた、Betty Boop essencial collection Vol.4が届いた。予想していたようにベティが白雪姫やシンデレラを演じる作品が収録されていた。でも、日本を訪れる作品はなくて少しがっかり。今回初めて見て面白かったのは、「ベティの漂流記」。典型的な南の島の原住民が出てくるというのも面白さの一端を担っているが、ハワイアン・メロディとポリネシアン・リズムの音楽が心地よいのである。音楽が耳に残るという意味では、ベティさんが愛犬パジィ他の動物たちに音楽を教える「ベティの音楽学校」。検閲のためスカートが長くされたんだけれど、キャラクターデザインは以前よりも肉感的になった「ベティの大尽道楽」は、ガーター・ベルトがミニスカートの裾からチラチラ見えて、扇情的ということではシリーズ中で一番かと思う。
 「不思議の国のベティ」では、シーモア・ネイテルらしいパースの付いたカチッとした作画が目を引く。「ベティのシンデレラ姫」は画質が良いので、2原色カラーだというのが良く分かる。Sally Swingは、サリーという女の子の方が主人公なのだが、まったく、スイングしまくる音楽でかろうじてベティ・シリーズなんだろうなという作品。

1.Stopping the Show 1932年「花形ベティ」
2.Snow White 1933年 「魔法の鏡」
3.Parade of the Wooden Soldiers 1933年 「不思議の国のベティ」
4.She Wronged Him Right 1934年 「ベティの舞台大洪水」
5.Red Hot Mamma 1934年 「ベティの鬼退治」
6.Poor Cinderella 1934年 「ベティのシンデレラ姫」
7.There's Something About a Soldier 1934年 「ベティは軍人がお好き」
8.When My Ship Comes In 1934年 「ベティの大尽道楽」
9.Zula Hula 1937年 「ベティの漂流記」
10.Riding the Rails 1938年 「ベティの地下鉄騒動」
11.The Swing School 1938年 「ベティの音楽学校」
12.Pudgy the Watchman 1938年 「ベティの番犬」
13.Sally Swing 1938年(邦題なし)

*邦題は筒井康隆「ベティ・ブープ伝」による。

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