2024/08/03

めくらやなぎで眠る男

 ピエール・フォルデス監督「めくらやなぎと眠る女」を地元の映画館(シネマサンシャイン沼津、ここは「リンダはチキンがたべたい!」も上映してくれた)で見ることができた。日本語版(地元出身の磯村勇斗が主人公を吹き替えている。多分、このために地元の映画館で上映されることになったと思う)だけでなく英語版の上映もある!
 ということで、人が入らなくてすぐに上映が終わりそうな英語版から見た(予想していたように観客は少なく、自分を入れて2人)。英語のセリフが案外聞き取れて、なおかつ、そのリズムが心地良い。夜の回でいつもなら布団の中に入っている時間帯でもあり、後半、眠気に誘われる。退屈だから誘われるのではなく、描かれる世界の不思議なぬくもりに包まれるせいでもある。眠気に誘われるのは自分の波長に合う映画の証拠。日本語版もできるだけ早く見に行こう。監督の祖父ピーター・フォルデスの作品を連想させた変形のシーンあり。
 そして、磯村勇斗出演の日本語版も見た(平日の午後の回であったが案外人が入っている。やはり、磯村効果か)。吹き替えというより、こちらの方がオリジナルじゃないかという思えるほど。今回は前半で日本語のセリフのリズムに眠気を誘われるが、後半はそうならず、見逃した短いカットがいくつかあるのに気づく。黒澤明とキューブリックへの敬意を感じる。

 村上春樹の小説を読みたくなった(短篇を1つ読んだことがあるだけである)。

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2024/02/03

「哀れなるものたち」小説と映画と

 映画を見る前に原作の小説を読んでおこうとアラスター・グレイ「哀れなるものたち」を一気に読了。一筋縄ではいかない「哀れなるもの」とは何(誰)か。それを映画ではどう切り取って表現してるんだろうか。すごく楽しみだ。映画を見た人が、何じゃこれ、と思うならそれはそれで原作通りともいえる。

 アラスター・グレイの小説は「ラナーク」を読んだことがある。4巻からなる作品だけども、3巻から始まるという不思議な作りの作品で、画家でもあるので、奇妙な味わいの自作のイラストもたくさん入っている。巻頭のこのイラストに、人体解剖図のようなものがあり、これは「哀れなるものたち」につながるイメージ。1,2巻と3,4巻で違う話になっていて、最後の方で、これは親子の話であって繋がりがあるらしいとなんとなくわかるというもの。この不思議な、SFでもありミステリーでもありゴシック・ロマンでもあり、作者の自伝的要素もある実験小説は読んでいて面白かった。

 そのグレイの作品を原作とした、「ロブスター」というこれもまた奇妙な印象に残るSF映画のヨルゴス・ランティモス監督の映画である。これは、見逃してはいけないと、原作を読み終えた次の日に見てきた。原作では手紙の書き方や内容の変化で表されている、主人公ベラ・バクスターの幼児から大人の女性への精神的成長を、エマ・ストーンが見事に演じているのが凄い。その演技以上に、良いと思ったのは、不安を掻き立てるような音楽。フランケンシュタイン物と思わせといて実は・・・という部分は原作より弱くなっているのがちょっと残念。原作は、ありえない物語を実際に起きたことだと思わせるための仕掛けがなされているが、映画の方では、寓意的ファンタジー世界の画作りであった。

 色々なところが原作から改変されているが、まったく違っているのはクライマックスのシーン。この改変はそれなりに理解できる(原作の対応する部分はちょっとモタモタ感がある)が、このクライマックスに至る直前のパリの娼館でのエピソードで、フェミニズム観点から原作を切り取っているように思われるのに、男性医師による性病定期検査をカットしてしまったのはなぜだろう。主人公の自覚の強さを示せるし、監督好みの衝撃的映像も作れるのに。

 原作は、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」のようでいて、H.G.ウエルズへの意識も相当にあると感じるのであるが、映画では、それが直接的には表わされていない。ただ、ラストシーンでそれを暗示しているようには思われる。

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2023/01/06

フライシャーについての新しい本

Dsc_0846hs_001 `MADE OF PEN & INK:FLEISCHER STUDIOS THE NEW YORK YEARS' by G.MICHAEL DOBBS が届いた。表紙の見かけが 'The Art and Inventions of Max Fleischer'に似ているので最初amazonで見つけたときはこの本は持ってると勘違いし、その後見直して新しい本と気づいてあわてて注文したものだ(注文したのは日本のアマゾン)。著者は、アニメ雑誌Amimato!やAnimation Planetの編集発行人だった人。自分と同世代でTVでポパイなどに熱狂し、大学時代に上映会で再見してフライシャーについての本を書こうと思たち、デイブ・フライシャーやリチャード・フライシャーなどと連絡を取り、当時健在だった多くの関係者にインタービューし、特に、アニメーター/演出家のマイロン・ウォルドマンMyron Waldmanの協力を得て、1990年には出版されていたばずだったものが、さまざまな経緯で今になってしまったもの。続刊も準備中とのこと。これから本文を読もうと思うが、これまでに出版されているフライシャー関係の本にはない視点が得られそうな本である。
 フライシャーについての本と言えば、まず、Leslie Cabargaの'THE FLEISCHER STORY' が思い浮かぶが、この本はデイブ・フライシャーからしか協力が得られておらず、マックス・フライシャー側からすれば問題のある記述があった(改訂版では多少修正されている)。マックス側の視点で書かれたものとしては、マックスの息子のリチャードが書いた「マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者」Out pf the Inkwell があるが、ドブスDobbsによれば、ベティ・ブープに関しての記述には何か所か間違いがあるという。この本自体もドブスとリチャードとの共著という話もあったようだが、晩年のリチャードが父への思いを込めた本にしたいということで共著にはならなかったそうだ。リチャード・フライシャーが日本でもファンがかなりいる映画監督でその遺作となった著書であり、かつ、ジブリ配給で「バッタ君町に行く」が公開されることもあってか、原著が出版されてすぐにと感じるタイミングで邦訳が出た。ドブスの本もそのうちに翻訳出版されてほしいと思う。
 

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2022/12/31

2022年の映画

 今年も昨年と同じくらい(50回くらい)映画館に足を運んだ。昨年と同様にその中から10本を選んでみた。最初に挙げた作品以外は、ほぼ見た順であってその順番に意味はない。最初に挙げた作品は、全国的に劇場公開されていることだけで、もう、一大事なのである。

 1 NO BODY KNOWS チャーリー・バワーズ発明中毒篇(作品を1つ選ぶなら「怪人現る」)
 2 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊
 3 カモン カモン
 4 TITANE/チタン
 5 ハッチング-孵化-
 6 犬王
 7 FLEE フリー
 8 女神の継承
 9 RRR
 10 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

  次点 さかなのこ

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今年もCS映画の日々

 今年もCSの映画チャンネルで、見たかった映画、今に至るまで見落としていた映画(その最たるものは「チャイナ・シンドローム」「JAWS/ジョーズ」「ミッドナイト・エクスプレス」「二十四の瞳」)、ビデオ化されていない古い邦画、などなど昨年ほどではないが200本ほど見た。その中でも一番印象に残っているのは、シュヴァンクマイエルの「オテサーネク」である。見ていてどちらかといえば このような表現は好きではない、と思った作品だが、それゆえに記憶に残っているのである。シュヴァンクマイエル作であるが、アニメーションのシーンは他の作品に比べて少ない。チェコの昔話をディストピアSF風の設定で映像化した作品であった。

 自分好みの作品では、マチアス・マルジウ監督「マーメイド・イン・パリ」ウェス・アンダーソン監督「ムーンライズ・キングダム」ヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督「獣は月夜に夢を見る」がベスト3。

 劇場公開時に見に行きたいと思ったが見に行かなかった作品では、ミカ・カウリスマキ監督「世界で一番しあわせな食堂」が一番で、劇場に見に行くべきだったと強く後悔した。インド映画の「きっと、またあえる」がその次。アニメでは「漁港の肉子ちゃん」。プロデューサーがあの人なので・・・という躊躇はすべきでなかったと反省。見たかったのに突如劇場公開がキャンセルされてネット配信だけになったディズニーの「ソウルフル・ワールド」はディズニー・プラスで見たが、期待したとおりの面白い作品で、劇場の大スクリーンで見たかった。

 エリック・ロメールやゴダールの特集放送も見た。前者では、「海辺のポーリーヌ」の原型みたいな「クレールの膝」、大人になったポーリーヌの物語のような「夏物語」がいい。後者では、「女は女である」(以前見たことがあったのに、ほとんど覚えていなかった)、「恋人のいる時間」の2作。ジャン=ポール・ベルモンド主演作品もかなりの数見た。「ルパン3世」(第1シリーズ)の元ネタだよなと思う。その中では、やはり「カトマンズの男」が一番面白かった。チャールズ・ブロンソン主演のフランス映画「さらば友よ」(これもまた「ルパン3世」の元ネタらしい)「雨の訪問者」も面白く見た。それから、特集ものではカール・ドライヤーも見たのであるが、その中では「裁かるゝジャンヌ」「奇跡」が心に残る。

 ドキュメンタリーも何本か見た。その中では、ケニアの小学生のおばあさんを追った「GOGO(ゴゴ)94歳の小学生」が良かった。スタンリー・キューブリックに仕えた二人の知られざる男についての「キューブリックに愛された男」「キューブリックに魅せられた男」の2作は、キューブリックが実際にどのような人物であったがよくわかる貴重な作品だった。この二人の男はキューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」に出演しているという。この二人の献身へのキューブリックなりの感謝の意の表明のようだ。

 古い日本映画では、鈴木清順監督の「無鉄砲大将」三隈研次監督「座頭市物語」衣笠貞之助監督「女優」など。千葉真一追悼で「カミカゼ野郎 真昼の決斗」が見れたのがラッキー。野村芳太郎監督「チンチン55号ぶっ飛ばせ!!出発進行」はコント55号主演の人情ラブコメだが、歌謡映画の要素もあって、今陽子と皆川おさむでデュエットする「黒猫のタンゴ」のシーンに驚いた。「泥棒さん、わたしの心を盗んでください」という愛の告白の台詞に「ルパン3世 カリオストロの城」のラストシーンを思わず連想してしまった。銭形の名セリフのルーツか、と思う。

 海外アニメーションでは、カルロス・サルダーニャ監督の「ブルー初めての空へ」。ブラジルの長編アニメが見られるというのはそれだけで貴重。続編の「ブルー2 トロピカル・アドベンチャー」も見れた。リオデジャネイロが舞台なので、「リオの男」に出てくる山へ登っていく路面電車が出てくる。SF映画は今年はそれほどたくさん見なかった。「スノーピアサー」「アンチグラビティ」、ドイツのナチス・ネタのサメ映画「スカイシャーク」あたりが印象に残ったくらい。

 

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2022/08/06

もう一つのベティさん

 だいぶ前にThunderBeanからでた'THE OTHER BETTY BOOP CARTOONS VOLUME1'をやっと見終わった。フィルムが失われて見ることができない作品とされてきたHonest Love and True(1938)が収録されているのが、このディスクの一番の売り。このフィルムは、フランス語のタイトルがついているがサウンドは英語というもの。解説書はついていないし、ディスクの中に資料みたいなものも収録されていない。このBDについて検索したら、CARTOON RESEARCHの記事が見つかり、この記事には、

 The film appearing on this set is courtesy of film hero David Gerstein for finding the print and Serge Bromberg for being able to attain it and scan it for the set. (このフィルムは、フィルム発掘人のDavid Gersteinがプリントを見つけてくれたおかげで、Serge Brombergがプリントを手に入れられてデータ化できた)

と書かれている。残念ながら、それ以上の情報はない。
 私自身としては、18本の中では、Grammpy's Indoor Outing が立体背景が効果的に使われていて一番面白かった。Pudgy Picks a Fight! は、ベティさんが最初と最後にしか出てこず、ベティさんのセクシィな踊りが見れないのは駄作、と昔なら思っただろうが、今回見たら、パジィの大変なことしちゃったどう取り返そうという、健気な演技に作画が素晴らしく、かわいいので、パジィ主演作だと思えば傑作である、と感じ入ってしまったのであった。

 ちなみに、Olive FilmsのTHE ESSENTIAL COLLECTIONとの作品のダブりはない。

 

収録作品
1 Betty Boop’s Ker-Choo(1933)「ベティの自動車競走」
2 Betty Boop’s Crazy Inventions(1933)「ベティの発明博覧会」
3 Is My Palm Read?(1933)「ベティの運命判断」
4 Betty in Blunderland(1934)「ベティの鏡の国訪問」『間違いだらけの国』
5 No! No! 1000 Times No!(1935)「ベティの空中騒動」『ベティの愛の勝利』
6 Betty Boop and Grampy(1935)「ベティとグランピィ」『グランピーの家に行くのさ』
7 Henry, The Funniest Living American(1935)「ベティの悪戯小僧」(宝島社も同じ)
8 Betty Boop and the Little King(1936)「ベティと小さな王様」『ベティとリトルキング』
9 Betty Boop and Little Jimmy(1936)「ベティとあわて者」『ベティのダイエット』
10 Happy You and Merry Me(1936)
11 Grampy’s Indoor Outing(1936)「ベティの室内遠足」
12 Be Human(1936)「ベティの動物愛護」
13 House Cleaning Blues(1937)「ベティのお掃除」
14 Pudgy Picks a Fight!(1937)「ベティの銀狐騒動」
15 Ding Dong Doggie(1937)「ベティの消防犬」
16 Honest Love and True(1938)
17 Musical Mountineers(1939)『ベティと陽気な音楽隊』
18 Rhythm on the Reservation

 

「  」は「ベティ・ブープ伝」(筒井康隆)、『  』は宝島社のDVD‐BOXの邦題

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2022/07/30

あれからとりあえず何もない

 6/10にC4ピカソの警告音のことを書いて以来、今日までその音を聞くことはなくなった(ライトをハイビームにしたときを除く)。この4月から長くなった通勤にも慣れてきた。次のオイル交換まで、何もないことを祈る。

 以下、時間的にはちょっと遅くなってしまった話題などを少々。

 7月9日から浜松市美術館で「ハイジ展」が始まった。9日に小田部羊一さんの講演会があるので行くならその日に行きたいと思っていたが、都合によりその日に行けなくなりどうしようと思っていたところ、さる方より一緒に行かないかというお誘いがあり行ってきた。美術館の1階にハイジの原作に関わる展示、2階にアニメの「アルプスの少女ハイジ」に関する展示がされていた。
 1階で目についたのは、まず、ハンナ・バーベラの1982年の長編アニメ「ハイジの歌」Heidi's Song のポスター。この作品は実は見たことがない。1973年の長編「シャーロットのおくりもの」は日本でも公開されビデオ等も出ているのに、この作品はそうならなかったのはなぜだろう。やっぱり、「アルプスの少女ハイジ」があったせいだろうなあ。次に目についたのは、原作が日本で翻訳出版されたときの様々な画家による挿絵。その中では、少女漫画のスタイルを確立したといっていい高橋真琴の原画が見れたのが一番。
 2階の方では、やっぱり宮崎駿の手になるレイアウトがすごい。コンテは富野由悠季が手がけたものもあり、絵が描ける演出家であることがわかる。面白かったのは主題歌に関する展示で、特に、大杉久美子の事務所の手になる売り込み文書(手書き!)。また、別の日に見た友人から、スペイン語のコミック版がテレビシリーズの最終回を越えて描かれていて、おんじの船が嵐で沈むわ、ハイジとペーターが洞窟探検するわ、もう原作無視の波乱万丈の展開、ということを知らされて、自分は見落としてしまっていたことに気づき、うわ見ておきたかった、となってしまった。

 映画は「ハッチング‐孵化-」以降、「イースター・パレード」「シン・ウルトラマン」「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」「犬王」「FLEEフリー」「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」「PLAN75」「トップガン マーヴェリック」「ミニオンズ フィーバー」「暴太郎戦隊ドンブラザーズTHE MOVIE新?初恋ヒーロー/劇場版仮面ライダーリバイス バトルファミリア」「ブレードランナー ファイナルカット版」と見た。この中では「犬王」「FLEEフリー」を2回見た。どちらも途中で居眠りしたということもあってなのだが、居眠りしていないシーンでも、もう一度見て確認したいという魅力のある作品だったからである。「PLAN75」は地元出身の磯村勇斗が出ているから見に行き、「劇場版仮面ライダー」はお世話になった方の息子さんがプロヂューサーだからというのもあるが、「ドンブラザース」の鬼頭はるかを劇場の大スクリーンで見て見たかったという単純な理由から(自分にとって今一番面白いテレビ番組は「ドンブラザース」である)。

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2022/02/08

フレンチ・ディスパッチは2度見る

「フレンチ・ディスパッチ」の一番面白いところは、この役者にこんな役をやらせているのかという驚きと、その役柄が演じる役者の容姿を含めた特性を最大限生かしているということ。一例として、シアーシャ・ローナンの登場シーンを挙げる。実は、最初見た後、ローナンが出ていたと知り、ええっと思ったが、2回目見た時に、ここに出ていたとわかったシーンである。ローナンの一番の魅力がアップになっているシーンなのに、1回目には、それがローナンだと気付かなかった不覚。

 凶悪殺人犯が画家としての才能を見せる話である「確固たる名作」(レア・セドゥが看守を演じる話)にクランペットなる夫人が出てくるのが気になったのだけれど、これはやっぱりワーナー漫画への監督の敬意を表したものだろう、と2回目を見て思った。それは、この名前以外に、ワーナー漫画的なシーンがいくつかあることに思い至ったからだ。そう思うキーとなったのが、画商が画家と売る売らないの交渉をするシーン。ダフィとバッグスの「ウサギ狩り」「カモ狩り」の言い合いを思わせるのである。画商がダフィ、画家がバッグスである。そして、その後の画商と画家のやり取りはまさしくダフィとバッグスの典型的パターンで、思うようには画家が働かず画商がイラつくことなど、まったくイラつくダフィそのものだ。また、ティルダ・スウィントン演じる批評家のプレゼン・シーンで、他人に見せるものとは思えない個人的な画像が混じることは、アヴェリー以来のワーナー作品の得意技みたいなものだ。そして何より、クランペット老婦人がグラニーのような服装に見えること。ということで、この話は、ルーニーチューンへのアンダーソン監督のオマージュと私は思いたい。

 1975年がこの映画の現在なのだが、それよりずっと前の時代の雰囲気だなと思うのは、自分だけ?(現在やっているNHKの朝ドラも同じ年なのだが、やっぱり、同じように感じている。この年にはもうこんなことはなかった、という違和感である。)

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2021/12/31

2021年もCS映画の度々

 今年も昨年に引き続き、CSの映画チャンネルで多くの作品を見た。なんと今年は220本を超えていた。そんな中で、見た後も消さずに録画を残してあるのは、イルデイコー・エニェディ監督「私の20世紀」、新東宝の3つの短編からなる「恋愛ズバリ講座」、アンドリュー・ニコル監督「TIME/タイム」、ゲンディ・タータコフスキー監督「モンスターホテル」3部作、フィル・ロード&クリストファー・ミラー監督「くもりときどきミートボール」、子ディ・キャメロン&クリス・パーン監督「くもりときどきミートボール2」である(最初から残すつもりで録画した4Kダウンコンバート版の東宝怪獣映画群や「川本喜八郎の世界」「岡本忠成の世界」は除いて)。

 「TIME/タイム」はBDが安く売られているのでそれを手に入れたら消してしまうであろうが、まだ買っていない。この作品は未来世界のボニー&クライドみたいな話だが、「俺たちに明日はない」という日本題をニコル監督が知って、それから発想したんではないかと思えてしまう設定であった。こういうSF映画があることを知らないでいたのは不覚であった。「私の20世紀」は世紀末に生まれた双子の姉妹の物語である。テスラが登場する怪しく耽美な雰囲気がいい。「恋愛ズバリ講座」は見た直後に書いたとおりの怪作。アニメの2作というか、個別に数えたら5作は、劇場公開時に見逃してこの機会にまとめて見たら予想以上に楽しく面白かったもの。

 地元ではあまり見る機会のない、アメリカや韓国・中国等の国以外の映画では、フィリピンのラヴ・ディアス監督の「立ち去った女」に驚く。4時間に近い長さを音楽も色彩もないのに、その世界に引きずり込まれてしまったのである。フィンランドの「ロッキー」みたいな、これも黒白の「オリ・マキの人生で最も幸せな日」ユホ・クオスマネン監督も印象に残った。ノルウェーの自然災害2部作「THE WAVE/ザ・ウエイブ」「THE QUAKE/ザ・クエイク」が科学的にしっかりできていて、アサイラムの同様な作品の非科学性(これはこれで面白くなる場合もあるが)とご都合主義と対称的で好ましい。ベイルートの住民登録されていない子どもが両親を訴えるという「存在のない子供たち」ラディーン・ラバキー監督も、そのテーマもさることながら、主役の少年の演技に見入ってしまった。

 ある監督の作品が特集放映される時があって、今年はまず、アニエス・ヴァルダ監督作を見た。その中では「ラ・ポワント・クールト」が1番面白かった。これは舞台となっている海辺の町そのものの魅力が大きい。この町はクロード・ソーテ監督「夕なぎ」(バンド・デシネの作家が出てくるのに驚いた)でも登場した。サミュエル・フラー監督の「ショック集団」「裸のキッス」も記憶に残る。主演女優のコンスタンス・タワーズが魅力的なのである。

 古い邦画もいくつか面白く見れた。「兵隊やくざ」「猫が変じて虎となる」「若い娘がいっぱい」「丹下左膳餘話」。

 SFでは、「ホテルアルテミス」「ホーリー・モーターズ」「コンテイジョン」。特に「コンテイジョン」は現在のCOVID-19の状況を予見したかのような映画で、現時点での方が高い評価となった作品だろう。ロシア製のSF映画をだいぶ見たが、その中では、コミックブック的能天気な絢爛豪華さが自分の趣味に合った「コスモボール/COSMOBALL」がベスト1。

 

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2021/05/02

シン東宝

 日本映画専門チャンネルで新東宝の天地茂出演映画の特集(3本立て)をやっていたので見てみた。その中では、新東宝の最後の作品でスタッフ、出演者がノーギャラで撮ったという「恋愛ズバリ講座」(1961年)が一番面白かった。第1話「吝嗇」三輪彰監督、第2話「弱気」石川義寛監督、第3話「好色」石井輝男監督の3話からなるオムニバス作品。ドケチな男とガメツイ女が抑揚のない早口でやりあうのが面白い第1話、幼稚園の先生のあっと驚く大変身の第3話、それらに比べるとちょっとインパクトに欠ける田舎の村の原発誘致騒動の第2話なのだが、私にはこの第2話が実は気になった。それは、三島の農兵節(ノーエ節)が歌われ、架空の田舎の村の村人が話している方言が静岡県東部の方言だったからである。新東宝には三島出身のスタッフがいたのか? 一緒に放送された「憲兵と幽霊」(中川信夫監督1958年)でも冒頭の中山昭二と久保菜穂子の結婚式で農兵節が歌われていたし。

 それで、調べてみたら、新東宝の設立に関わり、取締役を勤めたこともある渡辺邦男監督が三島出身だったのである。第1話の天地茂演じるケチな社長は新東宝社長の大蔵貢を思わせるので、第2話の田舎の村長は渡辺邦男なるんだろうか。新東宝関係者にはよくわかる裏の意味がある話になっているのかな。池内淳子演じる村長の娘が新東宝を表していて、東京から村長の娘と結婚したくてやってくる眼鏡の気弱な男(演じるはなんと菅原文太!)が、やっぱり、大蔵貢なのか?

 最後の第3話は、誰かへの当てこすりというより、開き直ったスタッフによる、さらばすべての新東宝映画、という感じの三原葉子の怪演だな。

 音楽が渡辺宙明(3本目の「怒号する巨弾」も)だったのも収穫。「忍者部隊月光」以前の作品を初めて知った。

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