2023/01/06

フライシャーについての新しい本

Dsc_0846hs_001 `MADE OF PEN & INK:FLEISCHER STUDIOS THE NEW YORK YEARS' by G.MICHAEL DOBBS が届いた。表紙の見かけが 'The Art and Inventions of Max Fleischer'に似ているので最初amazonで見つけたときはこの本は持ってると勘違いし、その後見直して新しい本と気づいてあわてて注文したものだ(注文したのは日本のアマゾン)。著者は、アニメ雑誌Amimato!やAnimation Planetの編集発行人だった人。自分と同世代でTVでポパイなどに熱狂し、大学時代に上映会で再見してフライシャーについての本を書こうと思たち、デイブ・フライシャーやリチャード・フライシャーなどと連絡を取り、当時健在だった多くの関係者にインタービューし、特に、アニメーター/演出家のマイロン・ウォルドマンMyron Waldmanの協力を得て、1990年には出版されていたばずだったものが、さまざまな経緯で今になってしまったもの。続刊も準備中とのこと。これから本文を読もうと思うが、これまでに出版されているフライシャー関係の本にはない視点が得られそうな本である。
 フライシャーについての本と言えば、まず、Leslie Cabargaの'THE FLEISCHER STORY' が思い浮かぶが、この本はデイブ・フライシャーからしか協力が得られておらず、マックス・フライシャー側からすれば問題のある記述があった(改訂版では多少修正されている)。マックス側の視点で書かれたものとしては、マックスの息子のリチャードが書いた「マックス・フライシャー アニメーションの天才的変革者」Out pf the Inkwell があるが、ドブスDobbsによれば、ベティ・ブープに関しての記述には何か所か間違いがあるという。この本自体もドブスとリチャードとの共著という話もあったようだが、晩年のリチャードが父への思いを込めた本にしたいということで共著にはならなかったそうだ。リチャード・フライシャーが日本でもファンがかなりいる映画監督でその遺作となった著書であり、かつ、ジブリ配給で「バッタ君町に行く」が公開されることもあってか、原著が出版されてすぐにと感じるタイミングで邦訳が出た。ドブスの本もそのうちに翻訳出版されてほしいと思う。
 

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2022/12/31

2022年の映画

 今年も昨年と同じくらい(50回くらい)映画館に足を運んだ。昨年と同様にその中から10本を選んでみた。最初に挙げた作品以外は、ほぼ見た順であってその順番に意味はない。最初に挙げた作品は、全国的に劇場公開されていることだけで、もう、一大事なのである。

 1 NO BODY KNOWS チャーリー・バワーズ発明中毒篇(作品を1つ選ぶなら「怪人現る」)
 2 フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊
 3 カモン カモン
 4 TITANE/チタン
 5 ハッチング-孵化-
 6 犬王
 7 FLEE フリー
 8 女神の継承
 9 RRR
 10 ギレルモ・デル・トロのピノッキオ

  次点 さかなのこ

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今年もCS映画の日々

 今年もCSの映画チャンネルで、見たかった映画、今に至るまで見落としていた映画(その最たるものは「チャイナ・シンドローム」「JAWS/ジョーズ」「ミッドナイト・エクスプレス」「二十四の瞳」)、ビデオ化されていない古い邦画、などなど昨年ほどではないが200本ほど見た。その中でも一番印象に残っているのは、シュヴァンクマイエルの「オテサーネク」である。見ていてどちらかといえば このような表現は好きではない、と思った作品だが、それゆえに記憶に残っているのである。シュヴァンクマイエル作であるが、アニメーションのシーンは他の作品に比べて少ない。チェコの昔話をディストピアSF風の設定で映像化した作品であった。

 自分好みの作品では、マチアス・マルジウ監督「マーメイド・イン・パリ」ウェス・アンダーソン監督「ムーンライズ・キングダム」ヨナス・アレクサンダー・アーンビー監督「獣は月夜に夢を見る」がベスト3。

 劇場公開時に見に行きたいと思ったが見に行かなかった作品では、ミカ・カウリスマキ監督「世界で一番しあわせな食堂」が一番で、劇場に見に行くべきだったと強く後悔した。インド映画の「きっと、またあえる」がその次。アニメでは「漁港の肉子ちゃん」。プロデューサーがあの人なので・・・という躊躇はすべきでなかったと反省。見たかったのに突如劇場公開がキャンセルされてネット配信だけになったディズニーの「ソウルフル・ワールド」はディズニー・プラスで見たが、期待したとおりの面白い作品で、劇場の大スクリーンで見たかった。

 エリック・ロメールやゴダールの特集放送も見た。前者では、「海辺のポーリーヌ」の原型みたいな「クレールの膝」、大人になったポーリーヌの物語のような「夏物語」がいい。後者では、「女は女である」(以前見たことがあったのに、ほとんど覚えていなかった)、「恋人のいる時間」の2作。ジャン=ポール・ベルモンド主演作品もかなりの数見た。「ルパン3世」(第1シリーズ)の元ネタだよなと思う。その中では、やはり「カトマンズの男」が一番面白かった。チャールズ・ブロンソン主演のフランス映画「さらば友よ」(これもまた「ルパン3世」の元ネタらしい)「雨の訪問者」も面白く見た。それから、特集ものではカール・ドライヤーも見たのであるが、その中では「裁かるゝジャンヌ」「奇跡」が心に残る。

 ドキュメンタリーも何本か見た。その中では、ケニアの小学生のおばあさんを追った「GOGO(ゴゴ)94歳の小学生」が良かった。スタンリー・キューブリックに仕えた二人の知られざる男についての「キューブリックに愛された男」「キューブリックに魅せられた男」の2作は、キューブリックが実際にどのような人物であったがよくわかる貴重な作品だった。この二人の男はキューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」に出演しているという。この二人の献身へのキューブリックなりの感謝の意の表明のようだ。

 古い日本映画では、鈴木清順監督の「無鉄砲大将」三隈研次監督「座頭市物語」衣笠貞之助監督「女優」など。千葉真一追悼で「カミカゼ野郎 真昼の決斗」が見れたのがラッキー。野村芳太郎監督「チンチン55号ぶっ飛ばせ!!出発進行」はコント55号主演の人情ラブコメだが、歌謡映画の要素もあって、今陽子と皆川おさむでデュエットする「黒猫のタンゴ」のシーンに驚いた。「泥棒さん、わたしの心を盗んでください」という愛の告白の台詞に「ルパン3世 カリオストロの城」のラストシーンを思わず連想してしまった。銭形の名セリフのルーツか、と思う。

 海外アニメーションでは、カルロス・サルダーニャ監督の「ブルー初めての空へ」。ブラジルの長編アニメが見られるというのはそれだけで貴重。続編の「ブルー2 トロピカル・アドベンチャー」も見れた。リオデジャネイロが舞台なので、「リオの男」に出てくる山へ登っていく路面電車が出てくる。SF映画は今年はそれほどたくさん見なかった。「スノーピアサー」「アンチグラビティ」、ドイツのナチス・ネタのサメ映画「スカイシャーク」あたりが印象に残ったくらい。

 

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2022/11/11

チャーリー・バワーズを見たのです

 静岡サールナートホールで上映中の『NOBODY KNOWS チャーリー・バワーズ 発明中毒篇』を今日行かなければ見ることができないぞ、ということで、6日の日曜日に見てきた。バワーズについての1番の基本文献となるパンフレットも入手した。「マットとジェフ」を作っていたパワーズのところにいて、その後30年代のディズニー・プロで活躍するテッド・シアースがコメディ作品にもかかわっていたということもちゃんと書いてある。上映作品については、今回の公開用につくられた伴奏音楽が素晴らしい。やっぱり、ドルーピーの元ネタになったんではと思われる神出鬼没の怪人を捕まえようとする「怪人現る」が好きだなあ。オチもぶっ飛んでるし、実写とアニメ―ジョンとの融合も一番である。今回の上映には入っていない IT'S A BIRD(1930)は、バワーズ・コメディの集大成であったなあと思う。「たまご」「自動車」「ほら話」「変な生き物(人間も含む)」の4要素がすべてある。

 

 積読だったジョー・アダムソンJoe Adamsonの'THE WALTER LANTZ STORY'(1985)を読んでいる。チャーリー・バワーズが1930年代半ばに「うさぎのオズワルド」を作っていたランツ・プロの親会社ユニバーサルに雇われたことについて書かれている部分まで読み進んだ。ユニバーサルは、ランツが契約通りのペースで作品を作り続けれるか不安に思い、ランツに知らせずに、年26本のペースで安く作れるとアピールしたバワーズと契約した。バワーズはカリフォルニアのランツの元にはいかず、ニューヨークの自分のスタジオで作品を製作し、それは、Dumb Cluckという新キャラクターを登場させたバワーズらしい奇怪な作品だったとのこと。「マウス・アンド・マジック」のリストを見ると、1937年に'Dumb Cluck'というタイトルのオズワルド・シリーズの作品があった(このころのランツ作品には製作スタッフ名がクレジットされていないので、実際の演出家などの情報はない)。ということは、アヴェリーとの直接の接点はなかったと考えるのが妥当であろう。ちなみに、Bendazziの'ANIMATION A WORLD HOISTRY'にもこの経緯は書かれている(作品名は挙げられていないが)。

 

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2022/09/19

知られざる天才チャーリー・バワーズの作品群全国上映

 この話題についてだいぶツイッターでささやいたら思わぬ反響もあったので、それをまとめてみた(一部改変して追記)。(このブログの以前の記事ではチャーリー・ボワーズと表記してきたけれど、今回の日本で初めての劇場公開の表記に合わせて、バワーズと表記する。)

 

 静岡のサールナートホールでもチャーリー・バワーズ作品が上映されることになったので、40年以上前に同人誌に書いた記事を発掘した。記事を書いた当時は'There It Is'が劇場で見られるようになるなって思わなかった。これを書くことになったのは、アメリカの8mmフィルム販売会社のカタログの中に'It's a Bird'という聞いたことのないタイトルの実写合成人形アニメという説明の作品を見つけて直輸入し、見てその凄さ面白さにびっくりしたのが始まり。「世界アニメーション映画史」の著者、伴野・望月両氏にもすぐに連絡し見てもらった。その結果、「世界アニメーション映画史」に'It's a Bird'が取り上げられることになった。この同人誌は、編集発行人の友人と自分の二人しか原稿を書いていないのだけれど、他の記事は「ガンダム」を話題にしたものが多くて、1980年だったなあ、と思う。「ファンタスティックコレクション」の表紙・裏表紙をパックったページで挟んで冊子内冊子の形にしたのは他の記事との違和感を減らす工夫。
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 「バワーズが長生きしていたらアメリカの特撮やアニメに多大な影響を与えていたかも」というツィートを見つけたが、アニメの方ではその影響はあったと考えてよい。ルーニーチューンのロバート・クランペット作品PORKY IN WACKYLAND(1938年)は’It's a Bird'の影響下にあるという指摘が、再評価後ではあるが、されているし、テックス・アヴェリーの「なんでもウメー」の小羊も同作からの影響が感じられる。また、ドルーピーの神出鬼没さは'There It Is'の怪人に似ている。1930年代にバワーズはウォルター・ランツのスタジオで仕事をしていたことがわかったのだが、この頃アヴェリーはランツのスタジオでアニメーターだった。アヴェリー一派は確実にバワーズからもそのギャグ・センスを受け継いでいる、と考えていいと思う。
 一方、レイ・ハリーハウゼンの晩年の著作'A Century of Stop Motion Animation'(2008)にはバワーズの作品が取り上げられているが、再評価されてから見たような書き方で、ストップ・モーションの系列の作家には影響が大きくなかった、ということのようだ。ジョージ・パルのパぺトゥーンの影に隠れてしまったのかな。

 

 手の込んだ過程を経て目的が実現される機械群については、ルーブ・ゴールドバーグ → チャーリー・バワーズ → トムとジェリー、ロードランナーとコヨーテ → ピタゴラスイッチ という流れも考えられるなあ。

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2022/08/06

もう一つのベティさん

 だいぶ前にThunderBeanからでた'THE OTHER BETTY BOOP CARTOONS VOLUME1'をやっと見終わった。フィルムが失われて見ることができない作品とされてきたHonest Love and True(1938)が収録されているのが、このディスクの一番の売り。このフィルムは、フランス語のタイトルがついているがサウンドは英語というもの。解説書はついていないし、ディスクの中に資料みたいなものも収録されていない。このBDについて検索したら、CARTOON RESEARCHの記事が見つかり、この記事には、

 The film appearing on this set is courtesy of film hero David Gerstein for finding the print and Serge Bromberg for being able to attain it and scan it for the set. (このフィルムは、フィルム発掘人のDavid Gersteinがプリントを見つけてくれたおかげで、Serge Brombergがプリントを手に入れられてデータ化できた)

と書かれている。残念ながら、それ以上の情報はない。
 私自身としては、18本の中では、Grammpy's Indoor Outing が立体背景が効果的に使われていて一番面白かった。Pudgy Picks a Fight! は、ベティさんが最初と最後にしか出てこず、ベティさんのセクシィな踊りが見れないのは駄作、と昔なら思っただろうが、今回見たら、パジィの大変なことしちゃったどう取り返そうという、健気な演技に作画が素晴らしく、かわいいので、パジィ主演作だと思えば傑作である、と感じ入ってしまったのであった。

 ちなみに、Olive FilmsのTHE ESSENTIAL COLLECTIONとの作品のダブりはない。

 

収録作品
1 Betty Boop’s Ker-Choo(1933)「ベティの自動車競走」
2 Betty Boop’s Crazy Inventions(1933)「ベティの発明博覧会」
3 Is My Palm Read?(1933)「ベティの運命判断」
4 Betty in Blunderland(1934)「ベティの鏡の国訪問」『間違いだらけの国』
5 No! No! 1000 Times No!(1935)「ベティの空中騒動」『ベティの愛の勝利』
6 Betty Boop and Grampy(1935)「ベティとグランピィ」『グランピーの家に行くのさ』
7 Henry, The Funniest Living American(1935)「ベティの悪戯小僧」(宝島社も同じ)
8 Betty Boop and the Little King(1936)「ベティと小さな王様」『ベティとリトルキング』
9 Betty Boop and Little Jimmy(1936)「ベティとあわて者」『ベティのダイエット』
10 Happy You and Merry Me(1936)
11 Grampy’s Indoor Outing(1936)「ベティの室内遠足」
12 Be Human(1936)「ベティの動物愛護」
13 House Cleaning Blues(1937)「ベティのお掃除」
14 Pudgy Picks a Fight!(1937)「ベティの銀狐騒動」
15 Ding Dong Doggie(1937)「ベティの消防犬」
16 Honest Love and True(1938)
17 Musical Mountineers(1939)『ベティと陽気な音楽隊』
18 Rhythm on the Reservation

 

「  」は「ベティ・ブープ伝」(筒井康隆)、『  』は宝島社のDVD‐BOXの邦題

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2022/07/30

あれからとりあえず何もない

 6/10にC4ピカソの警告音のことを書いて以来、今日までその音を聞くことはなくなった(ライトをハイビームにしたときを除く)。この4月から長くなった通勤にも慣れてきた。次のオイル交換まで、何もないことを祈る。

 以下、時間的にはちょっと遅くなってしまった話題などを少々。

 7月9日から浜松市美術館で「ハイジ展」が始まった。9日に小田部羊一さんの講演会があるので行くならその日に行きたいと思っていたが、都合によりその日に行けなくなりどうしようと思っていたところ、さる方より一緒に行かないかというお誘いがあり行ってきた。美術館の1階にハイジの原作に関わる展示、2階にアニメの「アルプスの少女ハイジ」に関する展示がされていた。
 1階で目についたのは、まず、ハンナ・バーベラの1982年の長編アニメ「ハイジの歌」Heidi's Song のポスター。この作品は実は見たことがない。1973年の長編「シャーロットのおくりもの」は日本でも公開されビデオ等も出ているのに、この作品はそうならなかったのはなぜだろう。やっぱり、「アルプスの少女ハイジ」があったせいだろうなあ。次に目についたのは、原作が日本で翻訳出版されたときの様々な画家による挿絵。その中では、少女漫画のスタイルを確立したといっていい高橋真琴の原画が見れたのが一番。
 2階の方では、やっぱり宮崎駿の手になるレイアウトがすごい。コンテは富野由悠季が手がけたものもあり、絵が描ける演出家であることがわかる。面白かったのは主題歌に関する展示で、特に、大杉久美子の事務所の手になる売り込み文書(手書き!)。また、別の日に見た友人から、スペイン語のコミック版がテレビシリーズの最終回を越えて描かれていて、おんじの船が嵐で沈むわ、ハイジとペーターが洞窟探検するわ、もう原作無視の波乱万丈の展開、ということを知らされて、自分は見落としてしまっていたことに気づき、うわ見ておきたかった、となってしまった。

 映画は「ハッチング‐孵化-」以降、「イースター・パレード」「シン・ウルトラマン」「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」「犬王」「FLEEフリー」「機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島」「PLAN75」「トップガン マーヴェリック」「ミニオンズ フィーバー」「暴太郎戦隊ドンブラザーズTHE MOVIE新?初恋ヒーロー/劇場版仮面ライダーリバイス バトルファミリア」「ブレードランナー ファイナルカット版」と見た。この中では「犬王」「FLEEフリー」を2回見た。どちらも途中で居眠りしたということもあってなのだが、居眠りしていないシーンでも、もう一度見て確認したいという魅力のある作品だったからである。「PLAN75」は地元出身の磯村勇斗が出ているから見に行き、「劇場版仮面ライダー」はお世話になった方の息子さんがプロヂューサーだからというのもあるが、「ドンブラザース」の鬼頭はるかを劇場の大スクリーンで見て見たかったという単純な理由から(自分にとって今一番面白いテレビ番組は「ドンブラザース」である)。

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2022/05/06

チタンを孵化するアンネはいずこに? または、眠れる映画眠れない映画

 4月下旬に地元の映画館でアリ・フォルマン監督「アンネ・フランクと旅する日記」が上映されることがわかり、今年度から金曜日も仕事がない日になったので、初日の初回に見に行った。こういう海外アニメ作品はせっかく地元で上映されても見に来る人が少ないのが通例だからと予想していたよりも人が入っていて、良いことだとまず思う。映画が始まると、英語のセリフがそんなに難しくなくて字幕よりもこのセリフの方がよく頭に入ってくる。このセリフ、テンポが心地良く眠気に誘われていく。これではいかんと眠気と闘うが、結局負けてしまう。一番寝てしまっていたのは、日記の化身の少女が博物館から逃げ出すあたりの大事なシーン付近である。後半は眠気も去って見てられたのだが、これはもう一度見なければいかんと、上映最終日の最終回に見に行った。今度はきちっと前半を見ることができたが、これで見逃したシーンが見れたぞ、と思ったあたりで再び眠気に軽く誘われる。どうもこのアニメは自分には催眠効果がある、心地良いリズムを持っているようだ。ラストシーンは、はからずもウクライナへの支援メッセージになっている。

 この2回の「アンネ・フランクと旅する日記」鑑賞の間に、マイク・ミルズ監督「カモン、カモン」、ジュリア・デュクルノー監督「TITANE/チタン」、そして、本日、ハンナ・ベルイホルム監督「ハッチング‐孵化-」の、これも、よくぞ地元の映画館が上映してくれたと思う3本を見に行った。これら3本、特に、女性監督による、ジャンル的にはホラー映画に分類されるであろう後2本は、いわば、眠らせてもらえなかった映画だった。この2本、途中で、こういう表現が続くならもう見ていられない、と思った。ことに「TITANE/チタン」では、これ以上の嫌悪感が生じたら席を立とうと思った位である。でも、どちらもそれを乗り越え、ラストシーンを迎えると、やっと終わってくれるありがたい、という感情とともに、この後どうなるんだ、もっと悲惨なことになるかも、もっと皮膚感覚的に怖いことを想像させて、万人には勧められないけれど、ちょっと不思議な刺激的な映画を見たい人には勧めたいと思う。ただ、今年見た映画のベスト10に入れるかどうかは、この2本とも保留である。居眠りすらさせてくれない駄作、という紙一重の評価もまた存在しているのである。この3作とも主役の、少年(ウディ・ノーマン)・女性(アガト・ルセル)・少女(シーリ・ソラリンナ)の演技が凄い。それを引き出した監督がそれ以上に凄いということであろう。

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2022/02/08

フレンチ・ディスパッチは2度見る

「フレンチ・ディスパッチ」の一番面白いところは、この役者にこんな役をやらせているのかという驚きと、その役柄が演じる役者の容姿を含めた特性を最大限生かしているということ。一例として、シアーシャ・ローナンの登場シーンを挙げる。実は、最初見た後、ローナンが出ていたと知り、ええっと思ったが、2回目見た時に、ここに出ていたとわかったシーンである。ローナンの一番の魅力がアップになっているシーンなのに、1回目には、それがローナンだと気付かなかった不覚。

 凶悪殺人犯が画家としての才能を見せる話である「確固たる名作」(レア・セドゥが看守を演じる話)にクランペットなる夫人が出てくるのが気になったのだけれど、これはやっぱりワーナー漫画への監督の敬意を表したものだろう、と2回目を見て思った。それは、この名前以外に、ワーナー漫画的なシーンがいくつかあることに思い至ったからだ。そう思うキーとなったのが、画商が画家と売る売らないの交渉をするシーン。ダフィとバッグスの「ウサギ狩り」「カモ狩り」の言い合いを思わせるのである。画商がダフィ、画家がバッグスである。そして、その後の画商と画家のやり取りはまさしくダフィとバッグスの典型的パターンで、思うようには画家が働かず画商がイラつくことなど、まったくイラつくダフィそのものだ。また、ティルダ・スウィントン演じる批評家のプレゼン・シーンで、他人に見せるものとは思えない個人的な画像が混じることは、アヴェリー以来のワーナー作品の得意技みたいなものだ。そして何より、クランペット老婦人がグラニーのような服装に見えること。ということで、この話は、ルーニーチューンへのアンダーソン監督のオマージュと私は思いたい。

 1975年がこの映画の現在なのだが、それよりずっと前の時代の雰囲気だなと思うのは、自分だけ?(現在やっているNHKの朝ドラも同じ年なのだが、やっぱり、同じように感じている。この年にはもうこんなことはなかった、という違和感である。)

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2022/01/29

シトロエン・ディスパッチ

 新しいC4のデビュー・フェアをやっているというので、1年点検の予約を兼ねて、シトロエン沼津に出かけた。ブルーアイスランドというボディカラー、1.2Lターボのガソリン・エンジンのshineというグレードが試乗車として用意されていた。ALCとしては、売れ筋だというディーゼル・エンジンの試乗車もあるが、それは別店舗だとのこと。自分のピカソでよく走っている道を短時間試乗させてもらった。
 C5エアクロスに採用されているのと同じプログレッシブ・ハイドローリック・クッションというダンパーによる乗り心地が、やはり良い。ピカソも乗り心地はいいのだけれど、そのピカソでもガツンときてしまうようなバンプを柔らかくいなしていく。C5エアクロスより低価格でこの乗り心地が手に入るのは魅力だ。シートは、C3から採用されているアドバンストコンフォートシートだが、C3のシートに座った時程気持ちの良い柔らかさだと感じず、ピカソとの違いがあまり感じられなかった。不思議だ。
 ガラスルーフは昔のホンダのCR-Xのように外側、斜め上に開いていくタイプである。ピカソは広大なガラスルーフを持つが、初夏には開いてほしいなあ、と思うことがあるので、ヘッドルームを確保してオープンする仕組みというのは良いのである。スマートパッドサポートというタブレットホルダーが助手席前に用意されている。ナビは付けられないそうで、この部分を利用して、グーグルマップなんかをナビ代わりに使えということだそうだ。タイヤが195/60R18という、あまり見かけない、車に対してちょっと大きく感じるサイズである。乗り心地と燃費の両方への対策だとのこと。後席に年寄りを乗せることがあまりないなら買い換えてもいいかもと思ってしまうくらい、シトロエンらしい魅力にあふれた車である。

 

 ウェス・アンダーソン監督の新作「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イブニング・サン別冊」を見た。時代設定が1960年代後半で、このころのフランス車、特に、シトロエンの2CV、DS、Hトラックなどが頻繁に画面に登場する(一番活躍するのは、ルノー・ドーフィンだが)。アメリカの新聞のフランス支局が発行する日曜版から発展した雑誌の最終号の記事の紹介という形式なので、編集部の様子を間に挟みながら、主に3つのストーリーが展開する。最初のストーリーの、レア・セドゥの女看守が魅力的である。ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマントなどの役者陣がいい味出している。このところ気になっている女優のシアーシャ・ローナンが出ているのには気が付けなかった。編集部のデスクに座っている足のきれいな女の子が気になったのだけれど、演じているのは誰なんだろう。「タンタン」のようなフランスの漫画をそのまま動かしたようなアニメーションも挟まって、面白く楽しい映画であった。機会があれば、もう一度以上見に行きたいな。

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