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2024/02/03

「哀れなるものたち」小説と映画と

 映画を見る前に原作の小説を読んでおこうとアラスター・グレイ「哀れなるものたち」を一気に読了。一筋縄ではいかない「哀れなるもの」とは何(誰)か。それを映画ではどう切り取って表現してるんだろうか。すごく楽しみだ。映画を見た人が、何じゃこれ、と思うならそれはそれで原作通りともいえる。

 アラスター・グレイの小説は「ラナーク」を読んだことがある。4巻からなる作品だけども、3巻から始まるという不思議な作りの作品で、画家でもあるので、奇妙な味わいの自作のイラストもたくさん入っている。巻頭のこのイラストに、人体解剖図のようなものがあり、これは「哀れなるものたち」につながるイメージ。1,2巻と3,4巻で違う話になっていて、最後の方で、これは親子の話であって繋がりがあるらしいとなんとなくわかるというもの。この不思議な、SFでもありミステリーでもありゴシック・ロマンでもあり、作者の自伝的要素もある実験小説は読んでいて面白かった。

 そのグレイの作品を原作とした、「ロブスター」というこれもまた奇妙な印象に残るSF映画のヨルゴス・ランティモス監督の映画である。これは、見逃してはいけないと、原作を読み終えた次の日に見てきた。原作では手紙の書き方や内容の変化で表されている、主人公ベラ・バクスターの幼児から大人の女性への精神的成長を、エマ・ストーンが見事に演じているのが凄い。その演技以上に、良いと思ったのは、不安を掻き立てるような音楽。フランケンシュタイン物と思わせといて実は・・・という部分は原作より弱くなっているのがちょっと残念。原作は、ありえない物語を実際に起きたことだと思わせるための仕掛けがなされているが、映画の方では、寓意的ファンタジー世界の画作りであった。

 色々なところが原作から改変されているが、まったく違っているのはクライマックスのシーン。この改変はそれなりに理解できる(原作の対応する部分はちょっとモタモタ感がある)が、このクライマックスに至る直前のパリの娼館でのエピソードで、フェミニズム観点から原作を切り取っているように思われるのに、男性医師による性病定期検査をカットしてしまったのはなぜだろう。主人公の自覚の強さを示せるし、監督好みの衝撃的映像も作れるのに。

 原作は、メアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」のようでいて、H.G.ウエルズへの意識も相当にあると感じるのであるが、映画では、それが直接的には表わされていない。ただ、ラストシーンでそれを暗示しているようには思われる。

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