スタニスワフ・レム「地球の平和」
昨年暮れに発売されていた、レムの「地球の平和」を読み終えた。泰平ヨン・シリーズの最終作でレムの最後から2番目の長編。よく訳してくれました、ありがとう、というのが第一番の感想。最後の長編「大失敗」よりも面白く、こちらの方がレムの集大成の作品らしく感じる。本書の第一のテーマである、右脳と左脳の分離というのは、P.K.ディックの「スキャナー・ダークリー(暗闇のスキャナー)」を思い出させる。ディックからの影響は何かあったのだろうか? 「インヴィンシブル」からの流れをくむ、小型分散化の方向に自動進化した兵器がもう一つのテーマ。難解な文章が続いたかと思うと、突然挟まるハリウッド映画のようなアクションシーンがアクセントになっていて、飽きさせない。読んでいて楽しかった。読み終わってしばらくしてから、この結末はウエルズの「宇宙戦争」じゃないかとも思う。
タイトルの「地球の平和」(英語で、Peace on Earth)は聖書のルカ伝からとられたものであるが、同じ言葉をタイトルにしたMGMのヒュー・ハーマン監督の1939年作の漫画映画があって、この作品は、世界大戦で人類が滅亡した地球で生き残った動物たちが人類の犯した過ちを繰り返さないように平和に暮らしていくのだ、という作品だった。「まんが宇宙船」という番組で「動物たちの国づくり」というタイトルで放映されたのをみて、第一次世界大戦の西部戦線の様子を基にリアルにアニメ化したシーンの悲惨さと人類の真似をしてはいけないよと言われる動物の子供たちのかわいらしさの対比が印象に残る佳作であった。レムの本を読みながら、この作品のことも思い浮かべていた。
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