「チコとリタ」Chico & Rita フェルナンド・トルエバ、ハビエル・マリスカル、トノ・エランド監督 2010年作
「ふたりのアトリエ」のフェルナンド・トルエバ監督が作った長編アニメ「チコとリタ」のDVD(スペイン語版、英語字幕付き)を手に入れて見た。アニメの作り方としては「戦場でワルツを」と同様の手法であるのが、見初めてすぐに分かる。メイキングが付いていたので見てみたら、キューバの映画演劇学校でオーディションをして主人公の二人を選び、実写映画として公開できそうな形でトルエバ監督が、アニメーションの元になる実写映像を撮影している。トルエバ監督の演出はこの実写部分ですべて行われていると理解してよいようだ。これをアニメ化する際の「絵画化」を監督したのがマリスカルで、アニメーション製作過程の監督がエランド、ということのようだ。
何といってもこの作品の魅力は、「ベサメムーチョ」で始まる音楽である。舞台は、1948年のハバナからニューヨーク、パリ、ハリウッド、ラスベガスと移り変わる(物語の構造としては1998年のハバナでのチコの回想という枠組みがある)ので、キューバ音楽だけでなく、40年代から50年代にかけてのジャズ、ビバップやキューバン・ジャズ、の名曲が次々と流れてくる。セロニアス・モンク、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー等々のジャズ・ジャイアントが似顔絵で登場し、代表作を演奏する。キューバからニューヨークに渡ったチャノ・ポゾはセリフもあるし、作中で重要な役割を果たす。これらのジャズ・ジャイアントたちの演奏する音楽は、オリジナル音源を使ったのではなく、ガレスピーやパーカーと関係の深いジミー・ヒースが、オリジナルと聞き間違うような演奏のできるメンバーを集めて再現している。主人公のピアニスト、チコの演奏はベボ・ヴァルデス(撮影時なんと90才)が担当し、チコのキャラクター・デザインもヴァルデスの容貌を参考にしている。
アニメーションとしては、リタとなかなかうまくいかないチコの内面を表現したUPA風リミテッド・アニメ・シーンが、実写を元にしていないこともあって面白い。このシーンの中に、「カサブランカ」のあの名曲をチコが演奏するという、ボガートへのオマージュ(ワーナー漫画でも何度かお目にかかる)があり、これが洒落たギャグになっている。
大悲恋の純愛物語と思ったら、ライ・クーダーみたいな音楽プロデューサーとチコがリタのために作った曲を歌いたいという若い女性歌手により、靴磨きで生活しているチコが再発見されて、ハッピーエンドになる。
チコがガレスピーの楽団のメンバーとしてパリに行くシーンがある。そのパリの街角のシーンで、シトロエンDSが横切る。DSが発売されるのは50年代半ばで、作品の時代設定は50年代初めなんで、ちょっと誤差がある。でも、DSを走らせた気持ちはわかる。当時の洒落たパリの街の雰囲気を示すには、DS以外にない。
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