「サイクリック宇宙論」ポール・J・スタインハート、ニール・トゥロック(早川書房)
超弦理論とインフレーション宇宙論を結びつけたものが、現在の宇宙論のメインストリームと考えてよいのだが、それには重大な欠点がいくつかある。そのうちの最大のものは、我々の宇宙を特徴付ける自然定数の値が微妙すぎて、何かの偶然でその値となったと考えるしかないことだ。人類が宇宙に存在するためには絶妙な自然定数の調節が必要となる。膨大な数ある宇宙の中のたった一つがたまたま選ばれたというのは不自然で、何らかの必然でそういう値になっているという説明が必要だろうという立場で、この欠点を回避する理論が、本書で解説される「サイクリック宇宙論」だ。
超弦理論の発展で、ブレーン(1次元の存在である弦を2次元化した膜-メンブレーン-を略して作られた言葉だが、我々の宇宙を示すブレーンは9次元である)理論が登場し、複数のブレーンが余剰次元でつながり重力だけがブレーン間を伝わるという宇宙像が登場した。この余剰次元が実は素粒子サイズよりずっと大きく、そのため重力のみが他の3力(電磁力、弱い核力、強い核力)より弱いことが説明できるというのがリサ・ランドールなどの余剰次元理論である。2つのブレーンが余剰次元(2次元というのが有力らしい)でつながっていると考えるのだが、このブレーン間に重力だけでなく、ばねの力のようなものがはたらき、ブレーン同士がばねの両側につながれた物体のように近づいたり遠ざかったり振動すると考えることによって、インフレーションを起こすエネルギーが説明できるというのが、サイクリック宇宙論の根本である。
ブレーン同士が衝突した瞬間にビッグバンとインフレーションが起こる。2つのブレーンは衝突後離れた後再び衝突する。これは膨張する宇宙が収縮してビッククランチを迎えることに相当する。ビッククランチ後にビッグバンとなり再び宇宙が誕生する。これを繰り返すので、「サイクリック」というわけである。この誕生と終焉を繰り返すことで、自然定数が我々の宇宙の値に落ち着いた、と説明できるので、我々の宇宙が「たまたま」できたわけでないと考えるわけである。
サイクリック宇宙論が正しいかどうかは、重力波の観測で決着が付くという。重力波の観測はずっと試みられているわけだけれど、未だ誰も成功していない。いつか観測されるだろうが、自分が生きている間にその発見のニュースを聞けるかどうか。
この理論にあっても説明できずに残るのはダークエネルギーである。現在のどんな理論であっても、ダークエネルギーはダークなまま、現在の観測値のまま受け入れるしかないのである。完全な宇宙論は、ダークエネルギーを説明できるもの、あるいは、ダークエネルギーがいらないものでなければならない。その道のりは長そうだ。
決定的な基本方程式が見つかっていない超弦理論を元にしているためもあるのか、この理論はすごいぞ、という主張の強さが余り感じられない。二人の著者の性格でもあるのかな。
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