「重力の再発見」の発見
ダークマターの存在なしに銀河回転速度の異常を見事に説明できる理論、修正重力理論(MOG)の提唱者ジョン・W・モファットが自説を一般人向けに丁寧に解説した書「重力の再発見」(水谷淳・訳、早川書房)を読んだ。
MOGにモファットがたどり着いた歴史と背景を説明するために、なんと9章、256ページを割いている。このところたくさん出ている宇宙論本で、このあたりのことを知っている人は読み飛ばしてもいいかも。
10章からMOGの解説がなされる。宇宙の観測データに合わせるために自由に調節できるパラメータがないのに観測データと一致する範囲が広いというMOGの特徴が説明され、超弦理論やループ量子重力理論などよりは検証可能性が高そうな理論であることがわかる。モファットがこの結論に至り、興奮し、ついにアインシュタインを超えられると確信したことが、臨場感を持って伝わってくる。ランドールやサスキンドが自説について解説した本より、はるかに科学研究の醍醐味が感じられる。この本の一番良い点はここにある。9章256ページはこの感動を伝えるためにあるのだ。
MOGでは万有引力定数がニュートン、アインシュタインの場合と違って、時空の変数になるのだが、それは、ニュートンが発見した万有引力のポテンシャルにプラスして、湯川ポテンシャルで表現される銀河系スケールで強く利く第5の力がはたらくという形でも表現される。湯川ポテンシャルは、湯川秀樹が強い核力を説明するために導入した中間子(メソン)を示すものだ。素粒子の標準理論ではクォーク理論によって強い核力が説明されるので湯川の名前も出てこなくなってしまったのだが、アインシュタインを超える理論に出てくるのは、我々日本人には痛快に感じられることである。
湯川ポテンシャルが出てくるということは、この第5の力は質量を持つメソンと同様の粒子としてもあらわせるわけで、モファットはこれをファイオンと名づけている。このファイオンは、アインシュタイン理論における宇宙項と同じ役目をしている。ということは、宇宙項がダークエネルギーの存在理由なので、モファットの理論であっても、ダークエネルギーの問題は解決していないと言える。モファット自身もその点をきちんと認識している。
MOGに興味を引かれるもう一点は、特異点を持つブラックホールが存在しないということだ。この理論が正しいのなら、ホーキングたちが長い時間をかけて議論してきたブラックホールで情報は保存されるか?ということは、まったく無駄な議論となってしまう。そうなったら面白いかも、と思う。
MOGをネタにした宇宙SFって書けないかなあ。もしかしたら、すでに誰かが書いてるかな。
| 固定リンク
コメント