マイブリッジの糸・・・山村浩二の時間に愛を
広島アニメフェスでの公開にあわせて紀伊国屋書店から発売されたブルーレイDVDを購入して、遅ればせながら鑑賞。どのような作品であるかについてはまったく情報を得ずに見たので、19世紀末のマイブリッジの時代と21世紀初めの東京の母娘が対比されて描かれているということは思いも寄らなかった。基本的なテーマは時間であり、難解さを感じるイメージの連続であった。
1枚の紙の上にすべてを書き込むアニメーションの原点的手法がとられていて、自分がNFBの諸作、マクラレン、ラーキン、リーフなどの作品を見て、こんな動くイメージを自分も作ってみたいと思って実際に自主制作していた頃に作ったものの中に、似たようなシーンを自分も描いてたなあ、と思う。NFBとの共同制作ということで、山村浩二が、自身のアニメ制作の原点を見つめ、影響を受けたNFBの諸作にオーマジュを捧げつつ、そして現在につなげた作品なのだろう。
音楽は、バッハの「蟹のカノン」を基にして、ノルマン・ロジェがロジェらしい作編曲していて、これだけで、ああNFBだなと思えてしまう。本作を見ているときに、妻が蟹の格好をしてテレビの前を横切ったのだが、作品を見終わっておまけの解説画像を見るまで、使われている曲が「蟹のカノン」と呼ばれていることを知らなかった。ピアノ弾きの端くれであるわが妻にはすぐにわかったようで、ふざけて見せたのだった。この可逆な曲を使い、さらに、その楽譜も見せることで、時間というテーマを見る人に提示し、アキレスと亀の競争(ゼノンのパラドックス)も挟み込んで、アニメーションもまた、音楽と同様に時間の芸術でもあると強く印象付けている。
現在の東京で小学校に入学するかしないかくらいの女の子と母親の「蟹のカノン」の連弾のシーンで、わが妻と娘が同じくらいの頃同じように曲は違うが連弾していたなあと、ごく私的な感傷を引き起こした。マイブリッジの生涯がこの作品の第1主題なら、連弾する母娘は第2主題である。それが、どうつながるのか、作品の中では一切説明はない。ただ最後に、マイブリッジが撮影した母子の写真の引用が登場し、イメージの連環が一応つながる。
時間を逆転させても、ほとんどの動きはおかしさを感じさせない。前にギャロップしている馬の動きを逆転させた動きは、後ろにギャロップしている馬の動きと変わらない。しかし、母が子を産み育てていく過程を逆転させたら、それは、ありえないものになる。愛は不可逆、時間を超えて結ばれる糸、ということだろうか。マイブリッジは空間に糸を張って時間をコントロールすることができたが、時間の流れの中の糸は張れなかった悲劇。
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