「重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る」大栗博司 幻冬舎新書
超弦理論の研究者で「トポロジカルな弦理論」という計算方法を開発し、「ブラックホールの情報問題」というかのホーキング博士が提起した問題の解決に貢献した著者による「万物理論」の最大の候補である超弦理論の解説本である。話題になって久しいが、読んでみた。平易な読みやすい文章で難しい内容を丁寧に解説している。売れている理由はこれだろう。超弦理論登場前までの解説に5章、194ページを割いていているので、このあたりのことは他書で読んで知ってるよ、ということであれば、6章から読んでもいい。7章がこの本の白眉。「ホログラフィー原理」と「双対性」がこれだけわかりやすく説明された文章は初めてだ。
「重力とは何か」というタイトルからしたら、重力についての別のアプローチである、余剰次元による逆二乗則の破れの問題については、リサ・ランドールの名前と共に簡単に触れてあるだけなのが少々物足りない。この問題については、講談社ブルーバックスから『「余剰次元」と逆二乗則の破れ』(村田次郎)というやはりエキサイティングな本が出ている。
どちらの本を読んでも感じるのは、自分が大学で物理を学んだ時期は、物理学の研究状況としてはタイミングがあまり良くなかった、ということ。素粒子論では出るべきアイデアは出尽くした感があり、超弦理論もまだ密かに潜行している状況だった。学問としての閉塞感を感じたことは確かだった。こんなすごい論文が出たぞ~などという話を聞くことがあたら、もう少し物理学そのものに固執したかもしれない。
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コメント
CERNからヒッグス粒子の発見発表があった。超弦理論の前段階の、標準理論の確認で最後に残ったものだった。ヒッグスを捉えた実験では、他の現象も色々検出されているようで、その中には、超弦理論に影響を与えるものも含まれていると面白い。リサ・ランドールの少し大きめの余剰次元の兆候も見つかってると面白い。
投稿: WILE.E | 2012/07/05 21:43