「青の物理学 空色の謎をめぐる思索」 ピーター・ペジック 岩波書店
本書の原題はSky in a Bottle「瓶の中の空」である。空はなぜ青い?という疑問を解き明かした主に物理学者たちの物語であり、この疑問に対する解答の解説である。原題は、研究者たちが空の青を再現しようとした実験に由来する。ただ単に科学者たちを取り上げるのでなく、古代ギリシャの哲人たちから、ゲーテ(ニュートンの光学に反論した)やキャンバス上に空の青を再現しようとした画家などの通常は科学者と呼ばれない人たちのアプローチや考え方も年代を追って説明している。本書の中心になっている科学者の一人はチンダルである。高校の化学の教科書にっている「チンダル現象」のチンダルである。映画館で映写機から投影される光の道筋が見える、というのがチンダル現象なわけだけれど、チンダルがその先にある空が青く見える理由を追求していた、というのは本書で始めて知った。
光は電磁波であるから、光の電磁波説を打ち立てたマックスウェル(三原色カラー写真の研究もしている)から、レイリーが空がなぜ青いかを説明する物理的に完全な理論を打ち立てるのだが、それは目に見えない原子や分子の存在の証明にもつながり、このレイリーの散乱理論からも原子論にとって大事なアボガドロ数が見積もれるということも始めて知った。大学の講義で、空が青くて夕日が赤いのはレイリー散乱で説明できる、と聞いてそうなんだで済ましてしまっていたのだが、人間の目がどのように色を知覚しているかという問題とも関係しており、奥は深いのである。原子論との繋がりで、ペランの名著「原子」からの引用もある。ペランの本は就職してからだいぶたってから読んだのだが、学生時代に読んでおけばよかった、という本だった。
レイリー散乱で空の青さは説明できるのだけれど、それは必要条件であって十分条件ではないという研究が20世紀の後半になって現れた、というのも驚きであった。厳密に考える人たちのすごさを感じる。地球の大気が適当な密度で適当な量(厚さ)だったから、空は青いのであった。たとえば、火星の空は青くはないのである。
かのアインシュタインも原子の実在性を主張する論文を書いたので、空が青いという研究において重要な貢献をしたのであった。そして、散乱の厳密な理論には量子力学が必要である。
かように、空はなぜ青い、という疑問は一筋縄でいかない奥深いものであった。
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