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2012/06/12

グレック・イーガン「宇宙消失」

 昨年続けて見た量子力学の観測の問題をモチーフにした「ミスター・ノーバディ」「ミッション8ミニッツ」と同様に量子力学の観測の問題をネタの1つにした力技のSFを読み終えた。事象の地平線様のものに太陽系が囲まれた、というスケールの大きい設定である。読み始めた当初はこの謎に正面から挑む宇宙SFかと思ったが、そうではなかった。

 密室から行方不明になった「知的障害」を持つ女性の行方を捜すハードボイルド・ミステリーな展開から、本題である量子力学の観測の問題、つまりは、シュレーディンガーの猫をSFとして拡大解釈していく面白さ。「ミッション8ミニッツ」は明らかに本作の発想の影響を受けている気がする。ただ、私にはこの拡大解釈は無理があるなあ、と感じてしまう。「ウィグナーの友人」が登場するバクスターの「時間的無限大」も同様のアイディアが使われていたが、バクスターの方が物理学的に穏健であった。

 一方、モッドと呼ばれる脳力を向上させ感情をもコントロールするナノマシン(つまりは、脳に直接接続されるコンピュータ)が広く普及した未来社会という舞台設定の方が魅力的である。このナノマシンのうちのあるものは麻薬的な効果も持つものである。SFのアイディアとしてはこちらの方が現実性が高く、リアルさを感じる。

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