久方ぶりのアニメ洋書の紹介。
'When Magoo Flew The Rise and Fall of Animation Studio UPA' Adam Abraham WESLEYAN UNIVERSITY PRESS 2012
リミティッド・アニメーションと呼ばれるグラフィカルに様式化されたアニメーションを始めたプロダクション、UPAについての本である。UPAという名前を知っている人は日本では少ないだろう。私と同世代であるなら、「近眼のマグー」あるいは「ディック・トレーシー」のアニメを作っていた会社だといえば、ああ、あれね、と思い出してくれる人はかなりいるだろう。実際、アメリカ本国でも、UPAの代表キャラはマグーなので、本書のタイトルにもマグーが使われている。
カートゥーンのキャラの多くは、ミッキーやバッグスを思い出せば、人間ではない、擬人化された動物である。人間キャラというのはポパイやベティさんくらいしかいない。私自身、テレビでアメリカのアニメを見ていた記憶では、ポパイの次に来る人間キャラがマグーであった。目の悪い偏屈な老人が、物や人を見間違えることによって事件が起こり笑いが生じるというのがマグー・シリーズの基本形であった。
リミティッド・アニメーションにもどるなら、この手法はテレビ用アニメを毎週送り出すための方便として乱用されて、UPAが始めた本来のグラフィック・アートとしての素晴らしさは片隅に追いやられてしまった。UPAのマグーもテレビアニメのシリーズでは同様である。ディック・トレーシーも同様であるが、鳥瞰で捉えたトレーシーの乗ったパトカーが摩天楼の谷間を現場に急行するシーンは、UPAらしさを感じさせるものだった。子供心にこのアングルの新鮮さは印象深かったが、同時に、毎回繰り返されて、手抜きアニメであるな、とも思ったことも確かだ。
UPAの成立には、1941年のディズニー・プロでの大ストライキとワーナーのチャック・ジョーンズが関係している。ジョーンズの直接の関わりは全米自動車労働組合が製作し、ショーンズが監督したフランクリン・ルーズベルトの大統領選挙を応援するアニメ「ヘル・ベント・フォー・イレクション」であり、UPAの事実上の第1作とされている。この作品は、大学時代に故・望月信夫さんに見せてもらい(先日の追悼上映会でも上映された)、その昔テレビの「ディズニー・ランド」で何度か見た勇敢な機関士ケーシー・ジョーンズそっくりの機関士が出てくるのに、あれっと思った。ストライキでディズニー・プロを辞めた、あるいは、辞めさせられた力のあるアニメーターたちが製作しているわけだから、似ているのは必然である。この作品を望月さんが発掘した当時は、どのようなスタッフで作られたのかよくわからなかった。そのことが、遺稿集に収録された当時の文章に書かれている。この文章で、望月さんは、ディズニー・プロを飛び出したジョン・ハブリーが関わっているはずだと推定しているが、本書では、この作品についてハブリーがどのように関わったのか詳しく書かれている。「ヘル・ベント・フォー・イレクション」のストーリーボードを作ったのがハブリーであったのである。
本書を読みすすめていくと、50年代以後のアメリカのアニメ製作(残念ながら、その主戦場はテレビになってしまうのだが)の中心となっていく人物がたくさん登場する。60年代後半のテレビアニメや劇場アニメとして異彩を放ったシュルツ原作の「チャーリー・ブラウン」を作ったビル・メレンデスもUPAで頭角を現したのである。というわけで、普段は拾い読みして積読洋書が多い中、まともにすべてを読もうと格闘中である。
'ANIMATION.CH VISION AND VERSATILITY IN SWISS ANIMATED FILM'Christian Gasser Hochule Luzern Design&Kunst und Benteli Verlags AG,Bern 2011
スイスのアニメーションのこの20年間の作品や動向をまとめた本。スイスで上映されるアニメはアメリカや日本、あるいは、イギリス・フランスの作品が多く、自国のアニメはなかなか育っていなかった。2002年にルツェルン応用科学芸術大学内のルツェルン美術デザイン学校がアニメーション学科を設置して、スイスのアニメーションの育成に取り組んだ。その成果を中心にまとめられた本である。ドイツ語と英語の両方で記述されている。紹介されているのは、まったく見たことのない作品ばかりなのでDVDか何かで確認してみたい。特に人形アニメが面白そうだ。
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