「科学的思考」のレッスン 戸田山和久 NHK出版新書
「市民のための科学リテラシーを身につけること」をテーマにした本である。戸田山和久の本を読むのはこれが初めてでなく、「科学哲学の冒険」についで2冊目である。どちらも「科学とは何か」を高校時代に理科が得意でなかった人に理解してもらいたくて書かれていて、それはかなりの程度実現している本なのだが、本当に「科学なんてよくわからんが少しは知っておかないとヤバそうだ」という人たちに読まれているのだろうか? わたしのように高校で理科を教えているか、大学で文系の学生に科学概論みたいな授業を担当している教員くらいしか手に取らないのでは、という疑問である。「学校で教えてくれないサイエンス」とサブタイトルをつけてあるので、このサブタイトルで手に取る人はいるかもしれないが、「科学」だとか「サイエンス」だとかという単語が見えた瞬間に敬遠する人間が日本には過半数はいるような気がしてならないのである。
本書の第Ⅰ部は「科学的に考えるってどういうこと?」となっていて、この内容は「科学哲学の冒険」のダイジェストのようである。特に疑似科学との違い、統計でウソをつく問題が取り上げられている。第Ⅱ部は「デキル市民の科学リテラシー -被曝リスクから考える」となっていて、福島第1原発の事故による放射能の問題を考えるのに、かなり良い解説になっている。ここでは、「安心」とは「科学的に不確実な相手とずっとうまくやっていけるのか、というシステムに対する信頼の問題」、「市民」と「大衆」の違い、「市民になりたくないなら、科学を学ぶ必要なんか、さらさらない」等の著者の本当に言いたいことが書かれている。特に「市民になりたくないなら、科学を学ぶ必要なんか、さらさらない」は色紙に書いて飾っておきたいくらいの名言である。ただ、市民になりたい人にきちんと科学を教えるシステムがこの国にあるのか、あるいは、お前はそういうつもりで科学を教えてきていたのか、という問題はある。「市民のための科学」というのは大学時代から自分の心にあり続ける問題である(研究者よりも高校の教員を選んだのもこの問題を考えた結果でもある)。
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