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2012/01/16

市民のための科学への道のりは遠い?

 今朝の新聞で「小澤の不等式」が実証されたことが大きく報道された。「小澤の不等式」というのはハイゼンベルグの不確定性原理を精緻化した式である(というのは、今日知った)。これは凄いことである。だから、新聞各社が大きく報道した。それは良いのだが、新聞によっては科学というか、科学の発展の仕方をきちんと理解していない表現が気になった。

 私が見たのは、朝日新聞、毎日新聞、静岡新聞の3紙。家で見た朝日新聞の記事は気にならなかった。職場に行って静岡新聞を見て、見出しに「量子力学の基本法則に”欠点”」とあり、「”欠点”」という表現にひかっかったのである。さらに毎日新聞を見たら「不確定性原理に欠陥」とあり、引用符もつかない「欠陥」には非常に違和感を感じた。

 「不確定性原理に欠陥」と書いたら「不確定性原理」が全否定されてしまうような印象を与えてしまう。「教科書の書き換え迫る」という言葉も毎日新聞では大きな活字で書かれている。アインシュタインの相対性原理が出てきてもニュートン力学は教科書から消えたわけではない。今回話題の不確定性原理が出てきても、やっぱり、ニュートン力学は消えなかった。だから、今回のこの発見が他の研究者により追認されて確立された法則と認められても、「ハイゼンベルグの不確定性原理」は教科書に残る。ハイゼンベルグが位置と運動量とを同時に確定することには、量子の世界では限界があると初めて言ったから、その延長の研究により「小澤の不等式」が生まれ、今、実証されたという報告がなされたのである。科学の世界では、新しい考え方が生まれたからといって、それまでの考え方が全否定されてしまうわけではない。新しい考え方は、それまで正しいとされてきた考え方の限界を明らかにして、古い考え方を包含してより広い世界に適用できるものになっていくのである。

 毎日新聞の見出しにはこのような科学の発展に対する理解が感じられない。朝日新聞は「物理の根幹 新たな数式」という見出しで、きわめて妥当な見出しである。毎日新聞の記者さんたちには是非「科学的思考のレッスン」をしていただいて、より良い科学や技術に関する報道ができるようになって欲しいと思う。
(付記:もう一度毎日新聞の記事を読み直した。問題なのは、見出しの表現だけで、記事本文は朝日に比べてわかりやすい部分もある。見出しを決定するときに、センセーショナルな方に振りすぎたということなのだろう。)

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コメント

今朝(27日)の朝日新聞の池上彰のコラム「新聞ななめ読み」で、「見出しで印象様変わり」と、この件について取り上げていた。私とは、ちょっと論点が違うのだが、言いたいことは共通している。

投稿: WILE.E | 2012/01/27 06:46

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