137はパウリの番号
アーサー・ミラーの「137 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯」(阪本芳久・訳 草思社)を読んだ。パウリという物理学者は一般には知名度は低いが、パウリの排他律(高校の化学で、原子の電子配置、つまり、K殻に2個・L殻に8個・M殻に18個・・・電子が入る、と教えていることの大元)、ニュートリノの存在の予言(ニュートリノという名前はフェルミがつけた)、CPT変換不変性という3つの現代物理学にとって大事な貢献をしている。また、「パウリ効果」(パウリがそばにやってくると、実験装置などが突然壊れる)というエピソードでも、物理を学んだ者には、印象深いノーベル賞受賞者である。そのパウリが心理学者のユングと親交があり、20世紀の物理学者としては、相当に怪しい分野である神秘主義に興味を持っていた、というノンフィクションである。
137というのは、量子力学が生まれる頃に登場した微細構造定数の逆数の値である。この値はプランク定数、電気素量(電子の電気量)、真空中の光速の組み合わせで作られる無次元量(単位のない量)で、現在では、素粒子間の(あるいは、われわれの宇宙の)電磁相互作用の大きさを表す目安の値である。この137そのものに関する話題は、実は余りページ数が割かれておらず、ユングとパウリの間でやり取りされた西洋における2項対立(たとえば、善と悪)思考の分析から東洋的な相反する2要素の同立(たとえば、ボーアの相補性原理)の思考への志向に、かなり多くのページが使われていて、そのあたりは、日本人である私からすると、どうして、こんなに陰と陽を全体として受け入れるのに時間がかかってしまうのか、というのが正直な感想。
「戦争で原子爆弾が使用されることは二度とないだろうというもう一つの考えについては、私は非常に疑わしく思っています。この新たに登場した殺人兵器をいますぐ国際的な管理下におかなければ、科学者という私たちの職業は、まっとうな感覚をもつ人々のあいだでは信頼されないものになってしまうでしょう。」というパウリの言葉は多くの物理学者が共有し、次世代へと語り継がれてきたように思う。福島の原発事故に関して、信頼できる情報発信をいち早く初めて、今でも続けているのは、この伝統を引く物理学者たちであったことを思うと、原発に関して、もっと直接的な責任を負うはずの原子力工学者は同様な考えを持つことはないのだろうか?
ユングについては「空飛ぶ円盤」しか読んだことがないので、この本をユング心理学の良い解説書として読むことが出来た。
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コメント
137という数について補足。
宇宙の年齢137億年。
今話題の放射性元素セシウム137。
後者の137はセシウムの原子核の中にある陽子と中性子の数の和である。
投稿: WILE.E | 2011/06/16 23:13