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2011/05/27

原発と教科書

 来年度から高校では「物理基礎」という新しい科目がスタートする(私の勤務校では、2年生の選択科目になっているので実際に授業をするのは再来年からだが)。この新しい科目の教科書が各社から出揃った。現行では「理科総合A」や「物理Ⅱ」で扱っている核エネルギーや放射能について「物理基礎」で扱うこととなった。基本的に説明しなければならない必須部分以外の説明が、教科書会社により違いがあり、ちょっと面白い。これらの教科書の検定は3.11以前であるから、福島の原発事故は記述に影響を与えていないが、そのような事故を想定したような記述の教科書もある。

 ということで、原子力発電と放射線の利点・問題点を記述した部分を各社ごとに抜書きしてみる。

数研出版
「原子力発電は、地球温暖化の原因といわれている二酸化炭素排出の問題はないが、放射性廃棄物の処理問題などの課題がある。」
「放射線はその電離作用(物質を透過するときに原子中の電子をはじき飛ばし、イオンにするはたらき)によって生物の細胞に影響を及ぼす。特に、細胞分裂の盛んな造血器官(骨髄、リンパ節)や生殖腺などが大きな影響を受ける。この影響を最小限にするには、放射線源から離れる、浴びる時間を短くする、鉛でさえぎるなどの対策をとる必要がある。一方、放射線は、非破壊検査、がんの治療、診断、農作物の品種改良など、産業・医学などの分野で幅広く活用されている。」

実教出版
「原子力発電では、ウラン1gの核分裂で石油2000L分に相当する膨大なエネルギーを得ることができる。また、地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素をほとんど発生させない。
 しかし、放射能もれや、制御不能による暴走など、周辺に大量の放射性物質が放出されて、放射能汚染の被害にあう可能性がある。また、使用済み核燃料や、古くなって解体した原子炉の材料は、強い放射線をもっている。このような核廃棄物を、長期間にわたって安全に管理することは難しい。これらの課題についても考えていかなければならない。」
「放射線は、植物の品種改良、美術工芸品などの非破壊検査、がんの検査や治療など、産業や医学などのさまざまな分野で幅広く利用されている。放射線は利用価値が高い反面、生物の細胞を傷つける作用もあり、人体にがんや突然変異を起こさせるなどの悪影響も与える。」

啓林館
「原子力発電は化石燃料を使う火力発電とは異なり、二酸化炭素などの排出ガスを生じないという長所をもっている。しかし、核分裂によってできる原子核には放射能があり、使用済み核燃料の中には有害な放射性物質が蓄積される。放射性物質が外部に漏れると、重大な環境汚染を引き起こすおそれがあるので、原子力発電では、使用済み核燃料をいかに安全に長期間管理するかという問題を抱えている。」
「放射線は、いろいろな分野で利用されている。医療では、病気の診断やがんの治療に利用されている。農業では、突然変異を起こさせて品種の改良に利用したり、食品保存のために発芽を抑えたりするのに利用されている。工業では、ジェットエンジンなどの非破壊検査(対象を壊さないで内部を調べること)、プラスチックの強度や耐熱性の向上、医療器具の滅菌、高温の鉄板の厚さの測定などに使われている。また、植物などに微量の放射性同位体を注入することにより、生体内での物質のはたらきや化学反応のしくみを調べることができる。このような利用法をトレーサー法という。」
「放射線の人体への影響は、放射線を浴びた部位や量、期間によって異なる。また、すぐにその影響が現れる場合(急性障害)もあれば、ある潜伏期間を経てがんや白内障などが現れる場合(晩発性障害)もあり、さらに放射線を受けた人の子孫に影響を及ぼす場合もある。図14に示したように、一度に大量の放射線を浴びると急性障害が生じる。急性障害が生じない量の放射線でも、がんや遺伝的障害が発生する可能性がある。現在では、これ以下なら影響がまったくないという安全量は確認されていない。国際放射線防護委員会は、一般人が1年間に受ける放射線の量は、自然放射線以外に、年間1mSv以下と勧告している。」

東京書籍
「原子力発電は、火力発電と同様に、高温高圧の水蒸気の圧力でタービンを回して発電を行うが、水を熱するためのエネルギー源として、ウランおよびプルトニウムの核分裂反応による熱エネルギーを利用する。したがって、火力発電のように二酸化炭素を排出することはない。」(別コラムとして「核燃料のリサイクル プルサーマル発電」あり)
「生体が放射線にさらされることを被曝という。生体が多量に被曝すると、放射線の電離作用により細胞内のDNAが破壊され、深刻な放射線障害を引き起こす。放射性物質の取り扱いには細心の注意が必要である。」
「放射線の被曝による人体への影響度は線量当量(シーベルト、単位Sv)で表される。私たちは空気、食物などから1年間に平均24mSv(ミリシーベルト)の自然放射線を受けている。X線を用いる医療検査などでは1回当たり0.05~10mSv程度の被曝を受けるが、200mSv以下の被曝による人体への影響は確認されていない。一般の人が医療目的以外で年間に浴びる放射線(自然放射線を除く)の上限(線量限度)は法令により1mSvと定められている。」(別コラムとして「臨界事故」あり)

第一学習社
「原子力発電では、連鎖反応を制御しながら、核分裂で生じる熱エネルギーで水を蒸発させ、水蒸気でタービンを回して発電する。原子力発電では、少量の核燃料から、大量のエネルギーを得ることができる。また、発電の過程で二酸化炭素が発生しないため、地球の温暖化に与える影響が小さいとされている。
 原子炉内の放射性同位体からは、強い放射線が出ており、原子炉の運転は、被曝を避けるために、常に厳しい管理のもとで行われている。使用済みの核燃料は、再処理によって、再利用されるものと放射性廃棄物とに分けられる。放射性廃棄物は、密封して保管されている。
 使用済みの核燃料には、ウラン238Uから生じたプルトニウム239Puが含まれ、これを核燃料として用いる発電も行われている(プルサーマル)。しかし、プルトニウム239Puは非常に毒性が強く、核兵器への転用も可能であることから、慎重な対応が求められている。」
「放射線は、工業や農業、医療など、幅広い分野で利用されている。たとえば、α線やβ線は、物体を通過すると、途中で吸収されて弱くなるので、薄幕の厚さの測定などに利用されている。γ線やⅩ線、中性子線は、物質を透過する性質が強く、物体を壊さずにその内部を調べる非破壊検査などに用いられる。
 わたしたちは日常生活の中で、さまざまな放射線を浴びている。しかし、多量の放射線は、健康に悪い影響を与える。必要以上の放射線を浴びないように注意することが必要である。」


 一般に大学受験向けとされる数研出版の記述が一番あっさりあいている。受験にはあんまり関係ない内容だよというのが量で示されているわけである。実教出版や啓林館は「物理Ⅱ」の教科書のほうに近い書きかただ(他社は「理科総合A」の記述に近い)。某進学校ではこういうところは受験に出ないということでまったく授業で触れないと聞いたことがある。私は、受験にはでないけれど核兵器と原発が存在する現代社会では、物理の教科書の他の内容は忘れてしまってもここだけは覚えておくと役に立つかも、といって、授業をしていた。

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