おっかなびっくりするけれど・・・
リチャード・ウイリアムスが約30年かけて作った「アラビアンナイト」Arabian Knight(1993年作)のDVDをやっと見た。アニドウのN会長さんから、東京国際映画祭で見たけれどあんまり面白くなかったなあ、と聞かされたのは1995年であり、あっDVDが出ていると購入したのは2002年なのだが、どれもついこの間のことのように思ってしまうのは、認知症のごく初期の症状だろうか?(静岡のテレビでやっているちびまる子ちゃんが出てくる認知症のCMだと認知症ではないようだが)ウイリアムスがかけた30年からすれば、ついこの間といっても良いのかもしれない。
この作品が製作中であるのを知ったのは、1978年、Funnyworld No.19でである。Funnyworldというのは、アニメ研究家のマイク・バリアーが出していた半同人誌的アニメ研究誌である。この号にリチャード・ウイリアムスのインタビューが載っていた。チャック・ジョーンズ制作のABCテレビのクリスマス・スペシャル・アニメ「クリスマス・キャロル」を見ていてリチャード・ウイリアムスは何者だ、という興味があり、一部のアニメファンの間でも話題になっていた人物だったので、自分でこのインタビューを訳し、静大アニメーション同好会の会誌「あにむし」に掲載した(その後、アニドウの会誌FILM1/24に転載された)。このインタビューでは、The Thief and the Cobblerと呼ばれていた作品だ。
この78年の時点でウイリアムスはあと2,3年で完成できると書いているが、それからさらに13年かかり、アメリカと日本で公開されたのは完成からさらに2年後だ。このインタビューにつけられたマイク・バリアーの前文に、完成まで時間がかかることへの不安が述べられていたが、見た感想をいえば、その不安は正しかったということだ。しかし、あんまり面白くないと片付けてしまうのには、少し抵抗したい。
アニメーションは素晴らしいのである。特に、盗賊。しかし、この盗賊がどうにも他のキャラクターと調和していない。盗賊以外のキャラクターのデザインが平板すぎるのである。悪役魔術師ジグザグ(声はヴィンセント・プライス!)や一つ目大将軍はテレビアニメのレベルのデザインだし、ヒロインの王女がもっと魅力的であればなあと思う。この王女については、上述のインタビュー記事や、日本では絵本作家として有名な本作品のスタッフ、エロール・ル・カインの追悼出版「イメージの魔術師 エロール・ル・カイン」(ほるぷ出版、1992年)に出ているストーリーボード(ル・カイン作画)では、王女はもっと大人っぽくて色気がある。
「イエローサブマリン」を連想させるグラフィカルな表現があり、イギリスのアート・アニメーションの香りもして、部分部分には見るべきものもあるので、もしかしたら30年後には、カルト・アニメ化するかもしれない。現在われわれが「バッタ君町に行く」を評価して公開時には評価がそれほど高くなかったのはなぜだとか言うわけだけれど、そうなる可能性も感じないわけでもない。
「ザ・シンプソンズMOVIE」もブルーレイ版でこの冬休みに見たが、「環境問題」の問題を正面から扱ったこの作品の方が映画として余程面白かった。しかし、アニメーションそのもののレベルはテレビレベルで「アラビアンナイト」にはまったく及ばない。このように劇場用長編アニメーションの評価というのは、実に難しいのである。
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