一人パルプフィクション大全集
トマス・ピンチョンの「逆光」をついに読み終えた。1ヵ月半かかった。上巻を読み終えたときには、これは複数のストーリーが同時進行し、それぞれのストーリーの主要ではない登場人物が重なり合うようなものなのか、と思っていたが、最後まで読むと、基本はトラヴァース家の物語で、それを見守るように飛行船で暮す「偶然の仲間たち」(なんだか彼らの様子は「サンダーバード」の国際救助隊の五兄弟のようである)の物語が時々挟まるのである。トラヴァース家の物語は、世界各地を転々とするが、煎じ詰めれば「大草原の小さな家」と変わらない。子供の見れない時間帯にやっている「大草原の小さな家」のパロディ番組(時々、他の番組が混線する)のようなものである。
上巻の終わりから下巻の初めの方にかけて、ハミルトンの四元数の話題が出てくるのだが、ハミルトン関数には大学時代悩まされたのに、四元数についてはまったく知らなかった。マックスウェルが電磁場の方程式を最初は四元数で表していたことも初めて知った。ベクトル・ポテンシャルとスカラー・ポテンシャルが電磁気学の重要なところと習ったのだが、ベクトル+スカラーな数でそれが最初に表現されていたのである。スカラー部分がエネルギーと時間に関係する、というのは、アインシュタインの特殊相対原理(マックスウェルの方程式に潜むローレンツ変換をニュートン力学に導入したもの)にも引き継がれていく部分だ。
方解石の複屈折から光の二重性、そこから、もう一人の自分、というイメージの連鎖があるのだが、物理学で「光の二重性」といったら、マックスウェル方程式で記述される電磁波としての光とアインシュタインの光量子説で示された光子としての光の、「波と粒子」の二重性である。この物理学での「光の二重性」はちょうど「逆光」の時代(1890~1920年)に話題になっていたのだが、その解決は第2次世界大戦中の量子電磁力学の完成まで待たねばならないので言及されなかったのか、それとも、いつか書く小説のためにとってあるのかな、とも思う。
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