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2010/05/20

数学は最善世界の夢を見るか? イーヴァル・エクランド 南條郁子・訳 みすず書房

 原題(の直訳)は「可能な世界の中での最善のもの」。モーペルテュイの最小作用の原理からシンプレティック幾何学まで。前者は光の経路(スネルの法則)と運動方程式により求められる物体の運動経路が同一の原理から導き出されることを示したもの。後者は、古典理学においても量子力学のハイゼンベルクの不確定性原理と同様の不正確性原理が成り立つことを示した数学。古典力学から量子力学、そして、最近のカオスやフラクタルといった話題に関わる解析力学を中心にして、それを生み出した哲学と数学の側面から、「最善」を目指して哲学と科学は統一的な見方に達することはできるのか、について考察した本。あとがきで、著者は、このテーマについてさらに考察を深めたい参考書として、スタニスワフ・レムの本を挙げていて、本文中でも「ソラリス」を例示している。デカルトやポアンカレに関する記述も多く、フランス人の著作だなあと思わせる。邦題が、P.K.ディックの有名な小説のもじりになっているのはレムからの連想か? 

 大学時代、専門科目の最初として解析力学の授業(教科書はランダウ、リフシッツの「力学」だった)を受けたとき、最小作用の原理にあっと思わされたのだが、その後は、理論の裏にある思想などとは関係なく、力学が形式的に整った体系として展開されて、なんでラグランジュアンがこの式になるんだ、などと思ったりもしつつ、その形式的な美しさに、物理学をやっているんだなあ、と感じたのだった。この形式の行き着いた先の一つが一般相対性原理だ。しかし、それらの美しい方程式の中に、カオスなどというやっかいなものが隠れているとは、当時の先生たちも学生も誰も話題にしていなかった。卒業してだいぶたってから、ゼミの先生から、カオスにかかわる論文が送られてきたことがあって、研究の流行を感じたものだった。

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