物理と宇宙と男と女
翻訳家の浅倉久志が亡くなり、その追悼で訳書で読んでいない物があったら読もうと思い立ち、書棚を捜したら、ポール・アンダースンの「タウ・ゼロ」が見つかった。「タウ・ゼロ」というのは、自分がSFマガジンを読み始めたばかりの頃(1971年)に「SFスキャナー」という海外の新作SFを紹介するコラムで、浅倉久志その人が「止まらなくなった宇宙船の話」ということで取り上げた作品である。この記事を読んで、膨張から収縮に転じ再度ビッグバンを起こして新しい銀河ができるまで飛び続けるというスケールの雄大さに心を引かれ、早く訳本が出て欲しい、と思ったのだが、創元推理文庫から本書が出たのは1992年で、20年ちょっと待たされたのであった。待たされ過ぎたためか、出たときには感激して買ったのはいいが、更に18年読まずにいたのであった。計40年! 本書の主人公といえる恒星間ラムジェット船「レオノーラ・クリスティーネ号」の乗員の飛行時間よりも遥かに長い時間が経ってしまった。
恒星間ラムジェット、発案者の名前を獲ってバサート・ラムジェットとも呼ばれる宇宙船の推進原理の説明や相対論による時間遅延効果や星の見え方の変化の描写など、ブルーバックスを読んでいるかのような文章の間をつないでいるのが、閉鎖空間に閉じこめられた男女50人の、書かれた時代を反映したかなりフリーな恋愛模様。オールディスだったら、こちらの方によりページを割いて、もっと扇情的な表現も多かっただろうなあ、と思ってしまった。
読んでいて映画化しても面白いのではないかと思ったのだが、最終章は映画「地球最後の日」のラストシーンを見ているよう。SFはやっぱり「絵」なのである。
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