バスの神鯨
T.J.バスの「神鯨」をハヤカワ文庫で買ってから31年経って初めて読んだ。読み始めて、こんなに長く積んどく本ではなかった、と後悔した。「人間原理」の宇宙論に触れた多分最初の長編SFだったのだ。作者のバスは病理学者なので、病院での人工冬眠やサイボーグ手術、クローン人間の製造などの描写が細部に渡り書き込まれていてリアリティがある。それに対して、タイトルになっているシロナガス鯨の体を利用して作られた巨大なサイボーグ漁船ロークァル(神鯨)や<ハイブ>と呼ばれる巨大都市が実際にはどのような形をしているのかは読みとりにくい。
gy=cという、人類が生存できる惑星の条件を示した公式が出てくる。これは地球表面の重力加速度の大きさgに地球の公転周期y(1年を秒で表した数値)を掛けるとほぼ光の速さcになることを根拠として使われてるものだが、不覚にもこのような数値の関係があることを、今まで知らなかった。ただし、この公式の関係は学問的な裏付けがあるものではないことは直ぐ分かる。2gの重力加速度の惑星を考えると、公転周期は地球の半分になり、恒星に近付きすぎてとても生物が生まれる条件になりそうにないし、そもそも恒星の大きさを表す量が入っていないので、惑星の表面温度が適切になる条件が含まれていない。重力加速度の大きさの平方根が円周率πにほぼ一致するということと同様の偶然の一致の関係でしかない。
遺伝的にはほぼ同一の3人を主人公にしているのが面白い、海洋冒険SF、あるいは、医学生理学SFであり、地球の海が再生する物語である。
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