トムとジェリー、なかよくけんかしない
ヴァン・ビューレン製作のカートゥーン・シリーズに「トムとジェリー」と題されるものがあった。有名なネコとネズミの同名シリーズが作られる前に製作されていた黒白の漫画映画である。このシリーズ9本を収録した輸入盤DVDをわいりーさんが貸してくれた。ヴァン・ビューレン作品を集めたLD(プレーヤーがとうとう生産中止になってしまった!)'CARTOON THAT TIME FORGOT FROM THE VAN BEUREN STUDIO'(DVDになって発売されていると思う)を持っていて、そこに3本入っていたのだが、別な作品の方に注目していたので(有名な方の作者となるジョー・バーベラが参加していた作品である)、きちんと今までこの「トムとジェリー」を見たことがなかった。それで、今回借りたDVDと合わせて見た。1本はだぶっていたので、合計11本である。
予想していたより面白かった。ちょっとテンポがかったるい部分もあるが、ディズニー(ミッキー・マウス他)とフライシャー(ポパイ、ベティ・ブープ)からのいただき的なシーンがあったり、やたら良く動くモブ・シーンがあったり、ベティを上回っているかもしれないエロさがあったり、今まで真面目に見ていなかったのは不見識であった。
DVD収録作品(題名、製作年、監督名)
1.PIANO TOONERS 1932 John Foster,George Rufle
2.FIREMAN'S LIFE *
3.IN THE BAG 1932 John Foster,George Rufle
4.PENCIL MANIA 1932 John Foster,George Stallings
5.A SWISS TRICK 1931 John Foster,George Stallings
6.PLANE DUMB 1932 John Foster,George Rufle
7.POTS AND PANS 1932 John Foster,George Rufle
8.ROCKETEERS 1932 John Foster,George Rufle
9.A SPANISH TWIST 1932 John Foster,George Stallings
製作年は、'OF MICE AND MAGIC'による。*は、オリジナルのタイトルがついておらず、半立体の題名だけの明らかに後でつけられたタイトルのみで、監督名の確認ができない。また、'OF MICE AND MAGIC'には同じタイトルの作品がリストにない。このリストの中から内容に近いタイトルのものを捜すと、
HOOK AND LADER HOKUM(a.k.a.FIRE,FIRE)1932 George Stallings,Tish Tash(フランク・タシュリンの別名)
が見つかった。この作品だけ、ちょっと雰囲気が違うギャグがあるので、それがタシュリンだと思えないこともない。
LD収録作品(題名、製作年、監督名)
1.THE TUBA TOOTER 1932 John Foster,George Stallings
2.PIANO TOONERS 1932 John Foster,George Rufle
3.WOT A NIGHT 1931 John Foster,George Stallings
両方に重なって収録されており、'OF MICE AND MAGIC'本文でも、図版とギャグについての解説文がある'PIANO TOONERS'がこの「トムとジェリー」の代表作と考えてもいいだろう。マーガレット・デュモン似のベティ・ブープのようなキャラクターが出てくるが、その声がベティそっくりである。声の出演者はタイトルにはないが、当時ベティを吹き替えていた人、その人だそうだ。なぜそれが可能だったかというと、ヴァン・ビューレン・スタジオはフライシャー・スタジオの筋向いにあったからだそうだ。調律されていないピアノから出た悪い音の音符を叩きのめしトイレに流す、というすごいギャグもある。
他に面白かったのは、DVDの4,5,7とLDの3。これらもフライシャーっぽい、メカニズム描写とエロ・グロ・ナンセンスである。もっとも、グロについては、骸骨の踊り(!)がある'WOT A NIGHT'しかないのだが。
背の高い方のトムがピアノを引くシーンがいくつかの作品にある。このときの手の動きに、マルクス兄弟のピアノ弾きチコに似た右手人差し指1本奏法が混じる。チコ・マルクスを意識して作ったのか?
また、'PLANE DUMB'では、トムとジェリーの凸凹コンビがアフリカに行くが、アフリカに着いた時に顔を黒く塗り、黒人になってしまう。この黒人になった時の顔がホーマー・シンプソンにそっくりである。となると、ホーマーは実は黒人のカリカチュアなのか、と今まで気がついていなかった視点に思い至るのであった。
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