サイボーグ士官、誰がために戦う
知人が翻訳した<サイボーグ士官ジェニー・ケイシー>3部作「HAMMERED 女戦士の帰還」「SCARDOWN 軌道上の戦い」「WORLEDWIRED 黎明への使徒」(ハヤカワ文庫)をやっと読み終えた。エリザベス・ベアの処女作シリーズの本邦初紹介である。作者が多分好きな過去のSFの色々な要素をこれでもかと注ぎ込み、女性作家らしい視点で、昨今の地球環境問題も入れ込んだ意欲作ではあると思う。
強大な中国と対抗できているのはカナダだけ、という設定も面白いし、ネイティブ・アメリカンの血を引くサイボーグ化手術を生き延びた50歳の女性が主人公というのも面白い。正体不明の2種の異星人が現れる、ノーベル物理学賞を朝永振一郎らとともに受賞したリチャード・ファインマンの全人格を再現した人工知能が第3部ではシェニーを押しのける活躍をする、といった読む気にさせる仕掛けがあるのだが、率直な感想を述べれば、今ひとつ物語にのめり込めないもどかしさがある。いかにもSFな道具立てを、ディックのようにガジェットとしてほとんど説明せずに使い、ストーリー展開の大胆さを示していくのか、あるいは、疑似科学的説明を丁寧にしてハードSFの本道を行くのか、どっちつかずな、半端さを感じるのである。
この3部作を読む前、というか、ちょっと先行しながら平行して、ストルガツキー兄弟のマクシム・カンメラー3部作「収容所惑星」「蟻塚の中のかぶと虫」「波が風を消す」を読んでたのだが、後2者の日付の入った文書(日記)という形式が、ジェニー・ケイシー3部作の形式と同じで、なおかつ、地球人類を遥かに越える異星人との接触という共通部分があって、一種の共鳴を感じてしまった。
ああ、もっとファインマン(私の大学時代、教員も学生も「ファイマン」に近い言い方をしていた)らしさを感じさせるリチャードであったらなあ!
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