「物理学者、ゴミと闘う」広瀬立成 講談社現代新書
地球環境問題について、物理の熱力学第2法則(いわゆるエントロピーの法則)が有効な指針を与えるというのは、すでに槌田敦の「資源物理学入門」(NHKブックス、1982年)で、明らかにされてはいるのだが、一向に環境問題を考える人たち(特に、役所の環境問題担当の人たち)の共通認識になっていないように思える。物理的な基本法則から説き起こして書かれた、勝木渥「環境の基礎理論」(海鳴社、1999年)というきちんとした「教科書」もある。表題の本は、自身の地元で起きたゴミ問題に関わる中で、高エネルギー物理学者である著者が、この物理学からの環境問題への視点を一般向けに解説した本である。日本での環境問題の先端を走っていたこともある我が沼津市の、市長や市会議員のみなさんに是非読んで欲しい本である。高校生でも分かるように書かれたこの本を、環境問題についての怪しげな本を読むより先に、きちんと読んで欲しいのだ。
この本を読んで分かって欲しい第1のことは、環境問題について何が怪しくて何が怪しくないかは、熱力学第2法則に照らし合わせれば、基本的には誰にも判断できる、ということである。とはいっても、色々な要素が絡み合っていて本質的に非線形な地球環境のことであるから、槌田敦ですら自分の主張を強調するために怪しいことを書いてしまう、実に危険な分野でもある。広瀬立成にしても、本当にそうなんですか、と問いただしたくなることを表題の本でも書いてしまっている部分がある。
熱力学第2法則に基づく地球環境の理解の大事な部分というのは、エネルギーは太陽光線のエネルギーとして地球に入射し、それが地表面で色々なエネルギーに形を変えて、最終的に熱エネルギーとなり、水の存在で地球大気の上層から赤外線として、入射したのと同じ量のエネルギーが出ていくということであり、この一方通行のエネルギーに対し、物質は循環している、ということである。このエネルギーの流れと物質の循環に、人間がどのように関係してしまっているかが、環境問題を考える基本である。
現在の地球環境問題というのは、人間が利用したエネルギーと物質がどうなっていくかを、きちんと考えることが必要なほど、人間の地球上での存在が大きくなってしまった、ということが最大の問題なのである。
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