素粒子論
以前から気になっていたミシェル・ウエルベックの「素粒子」を読み、現在、その続編とも言われている「ある島の可能性」を読んでいる。
「素粒子」は作者の自伝的要素があるため、私と同世代の兄弟が主人公である。弟の方が大学で物理を学んだ後分子生物学に転身したという研究者で、1980年前後の物理学の話題が出てくるし、タイトルからも分かるように量子力学の基本概念が所々で登場する。フランスと日本の違いはかなりあるが、いろいろなところで、ああ、その頃はそうだったなあ、と思う。
読み進めていくと、399ページから(文庫版)完全にSFになる。途中から、いったいこの2人の兄弟の人生を書いているのは誰なのだと考えさせられるようになり、分子生物学に関する話題が現実よりもフィクションの度合いが多くなってSF的になってきたぞと匂わせているのだが、この展開は案外唐突である。
兄の高校文学教師は、そばに自分を愛してくれる女性がいないと精神的に実に不安定になってしまうのが、単独で存在すると直ぐに崩壊してしまう中性子のようで、一方弟は、かたくなに自分一人の生活を続けるのが、宇宙の年齢の何倍もの寿命を持つ陽子のようである。高校時代まで兄弟として一緒に暮らし、その後、お互い何の連絡もなく別々に暮らしていても、一方がこうであるなら、他方はこうであろうと、すぐわかってしまうのは、まるで、アスペの実験である。
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