近頃なぜか、プリースト
一台の古いシトロエンが縁石のそばに駐まっており、雨に煙っていた。ラジエター・グリルについている重なったふたつの逆さVの字が、レストランの赤く輝く照明を照り返している。 「魔法」(ハヤカワ文庫)古沢嘉通・訳
クリストファー・プリースト原作の映画「プレステージ」が公開されている。新作の「双生児」も翻訳出版された。一時期、全くなにも訳されされない時期が続いたのが、嘘のようだ。それで、積読状態の中から「魔法」と「プレステージ」原作の「奇術師」、そして、新刊の「双生児」の順に読むことにした。映画を見る前に原作を読んでおきたいということでもある。
海外SF作家の中で、作品が出版されたら必ず買ってしまうのは、ディックとレムとオールディスと、このプリーストの4人しかいない(というか、SF乱読の末に、この4人が残った、というべきか)。
このところのプリースト作品を訳している古沢嘉通氏とは、実は、30年前に、ある人を通して、SFはどうあるべきか、ということについて手紙のやりとりで論争したことがある。今思えば、SFに期待するところが彼と僕とで似ていたからお互いに突っかかり合ったように思う。それから4半世紀以上経って、彼が僕の読みたいSFを一番訳してくれている人になっているというのが、その最大の証拠だ。
最初の出版時に全くその存在に気が付かず、2年前に文庫本化されたときに見つけてあわてて買った「魔法」は、プリーストを絶賛しているジョン・ファウルズの「魔術師」(河出文庫あたりで再刊して欲しい)を読んでいて思い出させた。それは。タイトルの共通性というよりも、愛し合う男女の心が、一人の超自然的存在の男によって、だんだんと引き裂かれていってしまうという共通性である。久しぶりに一気に読んでしまった。
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コメント
「奇術師」を読んで、書評家の絶賛の意味があまりよく分からなかったけれど、書評家がこぞってほめたおかげもあって「奇術師」が売れたので、絶版になりかけていた「魔法」が文庫本になったようです。イギリス本国でも評価は高いようですが、売れない作品を書く一人になってしまっています。映画で人気が復活するといいですね。好んで訳してくれる翻訳家も古沢氏ぐらいとなって、マイケル・コナリーはそこそこ売れているようですが、翻訳で生活できているのだろうかという程度しか仕事していませんね。
「双生児」も買いました。とりあえず「逆転世界」を読んでいます(笑)。
投稿: くーべ | 2007/06/10 19:36
「奇術師」読み終わりました。二人の奇術師の確執が面白く読ませるんだけれど、確かに、絶賛される理由はなんだろう、と思います。先日、ディックの「最後から2番目の真実」の新訳を買いに行ったら、「奇術師」のカバーが映画の写真を使ったものに変わって平積みされていました。「双生児」読み始めてますが、プリースト版「重力の虹」かって、ちょと感じてます。
投稿: WILE.E | 2007/06/14 06:49