グラショウ、ワインバーグ、ファインバーグの3人の著名物理学者が、同じ科学技術高校の同級生で、しかも、SFクラブをこの3人で創設した、というのは「セカンド・クリエイション」という本で紹介されていたが、その当事者グラショウの自伝「クォークはチャーミング」(紀伊國屋書店)でも、物理学へと向かう最初の出発点として触れられている。SF作家でもある(この本の後書きでは、サイエンスライターとしてしか紹介されていない)ベン・ボーヴァが共著者になっているのも、このためか。ノーベル賞学者の自伝というのは、案外日本で出版されていて、そのうちの何冊かを読んだことがあるが、このグラショウの自伝ほど、付き合ったガールフレンドについて、正直に書いているのもは珍しい。また、面白いと思ったのは、時々に乗っていた自動車についても触れていることである。ノーベル賞受賞の前年に、候補になっていることを意識して不眠症になっていたときに、ルノーに乗っていたなどというのは面白い。
この本の物理としての話題の中心は、グラショウがノーベル賞をもらった、電弱理論への貢献とチャーム・クォークの予言である。「クォークはチャーミング」というタイトルもここからきている。これらのグラショウの研究は、私が大学で物理を学ぶ直前になされていたものだ。私の入学した大学の物理学科の教授には、「クォークがあるなんて私は信じませんよ」という人もいたが、その時には、クォーク理論を提唱したゲルマンはすでにノーベル賞をもらっていた。統一理論の専門家はおらず、もっとも年の若い助教授が、電磁気学の授業で、ゲージ変換を強調して講義していたことが、唯一、グラショウたちがやったことにつながる内容だった。4年次のゼミでは、最後の方で、量子色力学の入り口くらいをやったが、アイソスピンなるものがどうにもピンとこなかった(だいたいにおいて、電磁気学の理解も怪しく、シュレーディンガー方程式も参考書を見ないと解けない状態だった)。当時最新の実験結果だと言ってゼミの指導教官に見せられたバリオンの共鳴グラフは、数年後に、間違いだということが判明した。
この手の、原子核より小さい世界の話になると、日本人の研究者が何人か登場するが、湯川秀樹、朝永振一郎の二人の仕事は、やはりインパクトがあったのだなあと思う。クォークにつながる発想の最初のものが湯川の中間子論であったし、電弱理論などの統一理論にとって、朝永らの「くりこみ手法」が可能であるかどうかは大事な要素である。因みに今年は、朝永振一郎生誕100周年である。来年は湯川秀樹生誕100周年で、両方を記念した資料展が開かれるそうである。
「万物理論」として、このところ「超ひも理論」(スーパーストリング理論)が話題になっているが、グラショウは、理論に対して懐疑的である。それは実験的な裏付けが全くない初めての物理理論だからである。重力、電弱力、強い力、の統一が可能であることは示されているが、具体的な内容は全くなく、この理論で予言できる物理現象は、今のところ何もない。この理論の可能性を肯定的にとらえて、21世紀の物理学の中心が、あたかもこの理論にあるかのように主張している学者も多いが、実験物理学者のいう当てにならない理論の典型かもしれない。
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