「ヴァリス」2部作+2
ついに、サンリオ文庫の最終巻であった「アルベマス」を読み終えた。「ヴァリス」「聖なる侵入」「ティモシー・アーチャーの転生」「アルベマス」の4作は、相互に関連を持つディックの遺作。訳者の大瀧啓裕のよれば「ディック神学」による作品群である。「ヴァリス」「聖なる侵入」は2部作として出版され、「ティモシー・アーチャーの転生」は一般小説として発表されたがSF仕立てでない「ヴァリス」の変奏曲である。また、「アルベマス」は「ヴァリス」の原型である。
一般的に言って、神様ネタは、SFとしてはあまり面白くはないものだ。これはディックでも同様。「スキャナー・ダークリー」を書いていた時の神秘体験をそのまま書いただけのような、SFというよりも私小説といいたい「ヴァリス」よりも、一応、それまでのディックSFの体裁になっている「聖なる侵入」の方が、読みやすいし、わかりやすい。また、珍しく、この作品は、最後で、主人公が救済されている。
グノーシス主義に基づく神学が両作品で展開されているのだが、昨年読んだ一番面白い本であった山本義隆の力作「磁力と重力の発見」に紹介されてるのと同一の思想家の理論がいくつも登場する。近代科学を生み出したギリシャ哲学やキリスト教の源流が、近代科学が生み出したSFの一つの典型をも生み出した、ということか。
また、この2作、特に「聖なる侵入」は、庵野秀明の「新世紀エヴァンゲリオン」の元ネタになっているといって良い。この2作で展開される「ディック神学」を借りて、永井豪の「デビルマン」を再構成して見せたのが、「エヴァンゲリオン」だと言える。したがって、訳者の大瀧啓裕が「エヴァンゲリオン」の詳細な解説本を書いたのも頷ける。
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コメント
これでP・K・ディックのサンリオ文庫版は完了したのかな。ともかくおめでとうございます。
そういえば、庵野さんは「キューティ・ハニー」を最近作っていたんだっけ。永井豪さんに強く影響を受けているアニメ作家なんですねぇ。「デビルマン」は那須さん?
文庫版になったので「フェアリイ・ランド」P・J・マコーリイを読み始めています。面白い。ただし分厚いけれど(あはは)。
投稿: くーべ | 2006/02/18 13:21
ええ、サンリオ文庫読破です。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のSF文庫版が、私が読んだSFシリーズ版の改訳版だとのことで、今度はこれを読むつもりです。それが終われば、レムが待っています。
でも、ブライアン・オールディスの未訳作品を読みたいんですねえ。どこかで出してくれないかなあ?
投稿: WILE.E | 2006/02/18 18:55