ハイブリット車という話題が出てきたとき、私は本当に省エネにつながるのか疑問に思ったことがある。それは、ガソリンを燃やしてエンジンを回し、そのエンジンの出力で発電し、モーターで走る、というエネルギーの各変換過程において、かならず摩擦などで有効エネルギーが減ってしまい、エンジンの出力で直接駆動するよりも使えないエネルギーが増えてしまうじゃないか、ということである。
それで、もう少し詳しく考えてみることにする。ガソリンエンジンは回転数により出力とトルクが変わり、エネルギー効率のもっとも良い回転数はある回転数に決まっており、それは、通常かなり高回転になる。違う表現をすれば、低回転時にはトルクは小さく、発進加速時に力が出ず、発進時に大きな加速を得ようとする場合、アクセルを踏み込んで、エンジンの回転数を上げていく、というエネルギー効率の面からすると、実に無駄な使い方をせざるを得ない、ということである。そうすると、このような条件の時には、ガソリンエンジンをもっとも効率の良い状態で発電機として使って、出力が回転数によらず一定(すなわち、低回転時ほどトルクが大きい)の電動モーターで駆動する方がエネルギー効率が良くできる。
したがって、ハイブリッド・エンジンの要点というのは、ガソリンエンジンを効率の良い一定回転でできるだけ使い、駆動輪直結の方が良い条件では直結し、発電機として使う方が良い条件では発電機として使う、ということになる。
このようにしてガソリンエンジンを使っても、理論的に決まる上限のエネルギー効率(熱効率)は30%台である。一方、ディーゼルエンジンは40%を越える値になる。さらに、ディーゼルエンジンに有利なのは、その最高効率がガソリンエンジンよりも低回転で得られるということだ。このことと、窒素酸化物の量をあまり問題にしないならば、二酸化炭素の削減には、ディーゼルの方が有効である。これが、ヨーロッパでディーゼルエンジンが主流になっている理由である。
原理的にエネルギー効率がディーゼルより低いガソリンエンジンを使うハイブリット・エンジンの燃費が、ディーゼルと同程度あるいはそれ以上になるには、もう一つ、回生ブレーキ、という仕組みがあるからである。電動モーターを使う利点として、ブレーキをかけるときに、電流を流すことをやめると、モーターが自然に発電機になり、運動エネルギーを電気エネルギーとして回収できるということがある。この性質を利用したものが、回生ブレーキである。普通の自動車のブレーキは運動エネルギーをすべて再利用不能な熱エネルギーに変えてしまうだけだが、回生ブレーキによって電気を発生させ、バッテリーに充電すれば、これを減速後の加速時に使うことができる。理論的には100%エネルギーの回収が可能だが、現実にはモーター中のコイルやバッテリー充電時の発熱損失などがあるので、再利用できるエネルギーは減ってしまうが、この損失をできるだけ減らす工夫をすれば、自動車全体としてのエネルギー効率の向上につながる。
電動モーターを使うものには、その電気をどうして作るのかの別なく、この回生ブレーキが組み合わされており、電気自動車が環境に良いと言われるのは、排気ガスがクリーンだということだけではなく、回生ブレーキによってエネルギーを無駄遣いすることが少なくなるからでもある。
ホンダとトヨタのハイブリッド・エンジンのシステムを比べてみると、ホンダの方は、回生ブレーキの有利さに主眼を置いたものになっている。ハイブリッド車の燃費の良さの主因は、回生ブレーキにあるという割り切った考え方をしているように思えるのだ。そして、それは正しい判断だと思う。そうすることによってシステムが簡単になり、いろいろな車種に適用することが可能になるからだ。ホンダがそうしてないのが実に残念なのだが、次期シビックは全部ハイブリッド、位のことをして欲しいものだ。センタータンク・レイアウトは、ハイブリット・システムを組み込んでこそ意味があるように思うのだ。
回生ブレーキの利点を考えると、ディーゼル・ハイブリッドもありだなと思うのだが、いすゞだったか、開発しているという記事が新聞に出ていた。愛知万博で走るリニアモーターカーも回生ブレーキがなかったら、エネルギー消費が大きすぎて開発が承認されない技術になってしまうだろう。「省エネルギー」とか「二酸化炭素の削減」ということについては、回生ブレーキのような、エネルギーを「再利用する」技術が大切なのだということが、もっとアピールされて良い。
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