シートをめぐる3つの体験
もう5,6年前のことだ。職場の慰安旅行で、蓼科高原に出かけた。同僚の運転する自動車に分乗して出かけたのだが、その当時新発売されて話題になっていたトヨタ・スパシオ(初代)に、乗ることになった。2列目は子供用の席だからと、ごく当然に3列目に乗った。ところが、この席、乗り心地が実に良くなかった。後車軸の真上に座る形になること、寝そべった変な姿勢で座る形になってしまう座面が妙にふにゃふにゃなシートのために、すぐに腰に疲労感を感じてしまった。それで、最初の休憩後に、狭いけれどアップライトに座る姿勢になる子供用の2列目に座ってみた。そうしたら、これが実に疲れないのである。まったく身動きが取れるなくなるのだが、シートベルトを締めてしまえば、3列目よりも腰に負担のかからない姿勢で体が固定され、さらには、ホイールベースの中央付近に座ることになるため、後車軸真上に座るよりはるかに乗り心地は良い。チャイルドシート取り付けのことを考えているのか、それとも子供が座る席だからか、座面が硬めなのもいい。で、結局、私は、この子供用とされる席にずっと座り続けることになった。
シートの座り心地は大きさでは決まらない。腰に負担のかからない正しい姿勢が取れて、きちんと体重を支えてくれる座面があれば良い、ということを痛感した。
トゥアラーの代車として、ローバー114に何度か乗った。初めて乗ったときの驚きは今でも覚えている。まず、リッターカーのサイズなのに、シートがそれに合わせて小さくされていないこと驚いた。座面の厚みも充分ある。私は、スパシオの子供席でも大丈夫だったように、それほど大柄ではないが、この思いもよらない立派なシートに座ったらヘッドクリアランスもニースペースもあまりない。いったい、私より大柄な人間が多いはずのイギリス人はどうやって乗っているんだろうと思ってしまう。もっとも、これよりもさらに小さいミニに乗ってるんだから、この車でも乗っちゃうのだろうが。で、走り出したら、とってもうるさい。CVT車だったから、エンジンはうなっているのに進まない、という初期のCVT車特有の体験をした。しかし、走り出していちばん驚いたのは、サスペンションの反応である。ハイドロガスサスペンションによる効果で、ホイールベースが普段乗っているトゥアラーと変わりなく感じられるのであった。ルームミラーをのぞいてリアウンドウがすぐそこに見えることとの違和感が、実に、新鮮で不思議な感覚だった。
シートとサスペンションの相乗効果で、その車の乗り心地が決まる。それによって、一回り大きな車に乗っているのと同じ乗り心地を実現することが可能なのだ、と、感動した。
さらに、記憶をさかのぼることになるのだが、トゥアラーを買ったばかりの頃、同じ職場の同僚が、ベンツの旧型車を中古で買った。ちょうど、新型が、それまでのベンツらしい押し出しの強い面構えから、スポーティな形に変わったときだった。それで、このベンツに乗って、岐阜に慰安旅行に出かけた。そうしたら、我がトゥアラーのシートがベンツに使われているものと基本的に同じであることに気づいた。表皮の色は違うが、同じ座り心地の本革製シートだったのである。前席は運転していて疲れない固めのシート、後席はふかふかだが、きちんと体を支えてくれるソファのようなシート。きっと、シートメーカーは同じに違いない。この体験以降、トゥアラーにはベンツと同じシートが付いています、とちょっと自慢してしまった。
ヨーロッパ車は、高級車から大衆リッターカーまで、シートについては基本的に違わないものを採用している。大衆車サイズでも、ベンツと変わらない内装の車が存在している。本当の贅沢、あるいは、車を楽しむって、こういうことじゃないか、と、つくづく思う。
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コメント
ごぶさたしてます。
欧州車に一度乗ってしまうと、シートって車選びのキモになりますよね。
さすがは椅子文化の国が作ってるというか…。
そこへいくと日本は畳文化ですからね。
椅子作りになれてないと言うか…。
本当に良いシートの日本車に巡り合ったことがありません。
機械的信頼性は最高なんですけどね。
投稿: Mic | 2004/08/26 22:17
本当にそうですね。特に、長時間座ってどうなのかと言うことについては、椅子使用の経験不足で、きちんと評価できなくて、良いシートで作ることができていないように感じます。あるいは、わかる人がメーカーにいても、どうせそんなに長時間座って運転したり、本当にシートを評価できるユーザーは少数派
だからと、コストダウンの対象になり続けているようにも思います。
投稿: WILE.E | 2004/08/30 09:27